
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第8章 第二話・其の四
蜜色の夕陽が庭を照らし、烏瓜の実をも橙色に染めている。赤い実が夕陽の色を受け、いっそう赤く見えた。
「ちゃんとした祝言を挙げよう」
その烏瓜の実を眼を細めて眺めながら、孝俊は、きっぱりと言った。
思いもかけぬ言葉に、美空は息を呑んだ。
歓びよりも戸惑いと愕きの方が大きかった。慌てて首を振る。
「私のことなら、良いのです。今のままで十分にございます。それに、祝言ならば、もう挙げました。二年前、徳平店でお民さんや源治さんにお祝いして貰って、きちんした祝言を挙げましたもの」
何もかもが質素だったけれど、親しい人たちに心から祝福された心に残る祝言であった。あの日の想い出があるのだから、美空は本当に十分だ。
美空が心からの想いを吐露すると、孝俊は笑った。
「いかにも、そなたらしい応えだな。多分、そう申すだろうと思うた」
孝俊は祝言についてはそれ以上触れず、唐突に別の話題を口にした。
「ところで、この庭の烏瓜、不思議だと思わぬか」
問われ、美空は素直に頷く。
「さようにございますね。烏瓜は普通は山のものですゆえ、お庭に植えるのは確かに珍しきことかとは存じますが、私はこの赤い実を見るのが大好きです。何だか、ずっと眺めていると、心が和んでゆくような気がするのです」
「そうか、心が和む―、か」
孝俊は呟くと、納得したように頷いた。
「この烏瓜は俺の父が植えたものだ」
「まあ、殿のお父上さまが?」
意外な話に美空は愕きに眼を丸くする。
「父上は趣味が庭いじりと少々風変わりなところがおありでな、家臣に命じて山から珍しい草木や花をよく持ち帰らせていた。これも恐らくは、そういったことで植えたのであろう」
孝俊はそう言いながら、烏瓜が様々な方面に利用できるのだと続けた。例えば、果肉は荒れ止めとして化粧水を作り、種子は食用、塊根から採った澱粉はキカラスウリの天瓜粉(てんかふん)の代用とし黄疸・利尿・催乳などに用いるのだと説明した。
「これらの話は、すべて父上からの受け売りだ」
孝俊は懐かしげに眼を細めて父の想い出を語る。
「ちゃんとした祝言を挙げよう」
その烏瓜の実を眼を細めて眺めながら、孝俊は、きっぱりと言った。
思いもかけぬ言葉に、美空は息を呑んだ。
歓びよりも戸惑いと愕きの方が大きかった。慌てて首を振る。
「私のことなら、良いのです。今のままで十分にございます。それに、祝言ならば、もう挙げました。二年前、徳平店でお民さんや源治さんにお祝いして貰って、きちんした祝言を挙げましたもの」
何もかもが質素だったけれど、親しい人たちに心から祝福された心に残る祝言であった。あの日の想い出があるのだから、美空は本当に十分だ。
美空が心からの想いを吐露すると、孝俊は笑った。
「いかにも、そなたらしい応えだな。多分、そう申すだろうと思うた」
孝俊は祝言についてはそれ以上触れず、唐突に別の話題を口にした。
「ところで、この庭の烏瓜、不思議だと思わぬか」
問われ、美空は素直に頷く。
「さようにございますね。烏瓜は普通は山のものですゆえ、お庭に植えるのは確かに珍しきことかとは存じますが、私はこの赤い実を見るのが大好きです。何だか、ずっと眺めていると、心が和んでゆくような気がするのです」
「そうか、心が和む―、か」
孝俊は呟くと、納得したように頷いた。
「この烏瓜は俺の父が植えたものだ」
「まあ、殿のお父上さまが?」
意外な話に美空は愕きに眼を丸くする。
「父上は趣味が庭いじりと少々風変わりなところがおありでな、家臣に命じて山から珍しい草木や花をよく持ち帰らせていた。これも恐らくは、そういったことで植えたのであろう」
孝俊はそう言いながら、烏瓜が様々な方面に利用できるのだと続けた。例えば、果肉は荒れ止めとして化粧水を作り、種子は食用、塊根から採った澱粉はキカラスウリの天瓜粉(てんかふん)の代用とし黄疸・利尿・催乳などに用いるのだと説明した。
「これらの話は、すべて父上からの受け売りだ」
孝俊は懐かしげに眼を細めて父の想い出を語る。
