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たまゆらの棘

第3章 螺旋

倫の貯金は日本へ帰る費用ギリギリだった。倫はある日、気づいた。その金がいつのまにか自分のバックから消えている事に。ヤられた!サムだ!倫は部屋に怒鳴り込んで行った。「サム!サム!俺の金をどうした!?」
「何の事だ?」サムは錬金術について書いてある怪しげな本を読みながらしらばっくれて言った。ここはまるでロンドンの地下鉄の落ちて行く螺旋階段のようだと倫は思った。
「俺の金をどうしたサム!!」倫の顔は怒りで真っ赤になっていた。倫はダイニングから包丁を持って叫んだ。「殺す!サム!俺の金を返せ!」さすがにソファに寝転がり本を読んでいたサムも本を投げ出して起きあがり、包丁を持った倫に応戦した。サムはその器用な手で倫の両手首を掴んで言った。「…ちょっと借りただけだ。必ず返す。神に違う。」倫は怒りで真っ赤になっていた。沈黙が続き、二人の荒い吐息だけがその場に響いた。女達はその騒ぎに驚いて飛び出して来てその光景をじっと見ていた。倫は落ち着きを取り戻した。(これは…罰だ…)「…サムって本当に最低ね。」一部始終を見ていた女達の1人が言った。サムはゆっくり倫の手から包丁をとりあげると、「今日は店は休みだ。倫、俺と一緒に来い。連れて行きたい所がある。」と言った。

倫は涙が出てきた。倫はダイニングの窓から青空を見た。空はこんなに綺麗なのに何故世界はこんなに汚いのですか…倫は自分の中の、神に問いかけた…。

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