
なつのおと
第5章 ふたりがいた夏 前編
山は母さんが言う通り私有地で、周りをグルッとフェンスで囲まれている。
だから普通は入れないのだが、俺たちは一カ所だけ破れているのを知っている。
そこをぐいっと押し開けばちょうど1人分の通り道が出来るんだ。
そこは男子の、しかもごく一部分の人しか知らない秘密なのだ。
たまに中学生がフェンスを飛び越えて来てしまうが。
リュックをガチャガチャいわせながら走ってその場所に向かう。
あれ。
「コウタもショウもどうしたんだよ?」
二人は先に来ていたが手ぶらだった。
俺みたいなリュックもしょっていない。
コウタは笑顔で興奮したように話し出す。
「なあなあハル!カンタんち新しいテレビゲーム買ったんだって!行こうぜ」
