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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

図書室で暇をつぶすことを覚えたカオルは、時間をもて余してつらい、ということが少なくなった。今日も勉強を兼ねて、歴史をもとにした童話を読んでいた。

それは、異国の者同士の恋を描いたものだった。カオルの中では、童話はハッピーエンドが多いイメージだが、この物語は悲恋だった。愛し合っていた男女は、物語の最後には引き離されてしまう。異国間での恋は、悲しい運命をたどるしかないのだろうか…。


…私とアルバートは、違う。

怒りさえ覚えながら本を閉じると、カオルは図書室を出た。角を曲がろうとしたとき、誰かとぶつかる。

「わっ…!ご、ごめんなさ……あ」

見るとそれは、ダイナスだった。

「これはこれは皇妃殿下。ご機嫌いかがかな」
にやにやとした顔が鼻につく。

「普通です」
カオルがぶっきらぼうに答えると、ダイナスが鼻で笑った。

「よろしくない、か。この度は残念でしたな。しかしながら、この国を想えば、これも当然の成り行き。このままいけば離縁も秒読みでしょうが、くれぐれも愚かなことはお考えにならないようお願いしたい」

ダイナスがチクリ、チクリと言う嫌味に、カオルはピクリと反応しそうになる。だが、堪える。

「離縁なんてありえません」
カオルは、ダイナスの目をまっすぐに見て言った。

…アルバートのことだから、いろいろ考えてるはず。最後にはすべて、うまくいくんだよね…?

「そうお思いなのは皇妃殿下だけでしょうな。お気持ちは理解できますが」

きっと、神さまか例の霊鳥かなにかが、私たちを試してるんだ。自分だけなにも知らず蚊帳の外なのは寂しいが、だからといってここで信じることをやめてしまっては、負けだ。

「…アルバートのこと、信じてますから」

…それに、別々に住んでるだけで、二度と会えないとかいうわけじゃない。

カオルはダイナスをよけて歩き出す。その姿を、ダイナスが不適な笑みを浮かべて見送っていた。

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