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アルカナの抄 時の掟

第1章 「運命の輪」正位置

なんてことだ。やっぱり不審者だったようだ。私が頭を抱えていると、青年が話しかけてきた。

「ねえねえ」
青年は、先ほどからついてきている。私は、だんまりを決め込んでいる。

「ねえってば~」
私の肩をつかむ。さすがに無視できなくなった私は超不機嫌な顔で振り返る。

「なによ!なんなの!」

「あのさあ。…ここどこ?」

「は?日本ですけど」

「ニホン?…じゃあ、なに国?」

「……は?」

「なんていう国なの?」

なに言ってんのこの人。

「だから日本だってば」

「国名だったのかぁ。でもニホン国なんて聞いたことないな~」

…付き合ってられないわ。
私が再び歩き出すと、青年も再び歩き出す。

「うーん。そうかぁ。どうも僕は、別の世界へ来てしまったようだ」

ヤバい。この人ヤバい。早く学校へ行こう…。
私は足を早めた。

「ねえ、さっきからどこに向かってるの?」

「学校」

「…ガッコウ。なにをするところ?」

「っていうかさ」

「ん?」

「なんでついてくるの?」

「うーん」
立ち止まり、考え込む。

…そこで考えるのか。

「なんかどうも」
青年は顔を上げた。因みに私はその間も足を止めてはいなかったため、青年とは少し距離があった。

「僕は君のことが好きみたい」

……は。
意味がわからない。

「さっき会ったばっかりじゃん、あなたと私」

「うん。一目惚れってやつみたい」

胡散臭…。本当に早く学校に行こう。入っちゃえばさすがに中までは来れないでしょ。

学校が見えてきて、私は少しほっとする。学校につくのも目前というその時。

「うっ……」

うめき声に振り向くと、青年が頭をおさえ、膝からがくりと崩れ落ちた。

「えっ…だ、大丈夫?」
青年のもとへ駆け寄る。青年は苦しげに顔を歪め、座り込んでいる。

「そろそろ…戻れるのかも」
どこに、と問おうとしたとき、青年がいきなり抱きついてきた。

「うわっ!」
勢いのあまり、そのまま後ろに倒れこむ。

その時。
辺りが眩く光りはじめる。

目の前が白くなり、何も見えなくなった――。

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