Memory of Night 番外編
第2章 Episode of YOI
ほんの一、二分程度で、彼は戻ってきた。
手には茶色いローファーを持っている。
「この靴で合ってるか? 他は上履きばっかだったし、多分残ってんの俺たちだけだろうから間違いねーと思うけど」
「うん、これで合ってるよ。ありがとう」
愛美は手に持ってみたり、実際に履いて履き心地を確かめた後でそう返した。
「ごめんね、取りに行かせちゃって……」
おずおずと付け加えると、宵はちらりと笑う。
それは、理科準備室で土曜の誘いを受けた時のような、どこか違和感のある笑みだった。
「……本当に世話が焼ける」
そうして、一言だけ。
闇の中にぽつっと落とすような、酷く軽いニュアンスで宵はつぶやいた。
愛美が視線を上げる。
たった一言だけなのに、何故かその言葉は愛美の耳にこびりついて離れなくなった。
「――誰か、世話の焼ける人が近くにいるの?」
自然とそんな疑問を投げかけていた。
愛美の傍らに置いたままの学生鞄を掴もうとしていた宵の手が、動きを止める。
「その人はもしかして……わたしに似てたり、する?」
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える