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Memory of Night 番外編

第4章 Episode of AKIRA


「待たせてごめん」


 逆光のため、彼女の表情はわからない。緩く巻いたマフラーが冷たい風に煽られ、なびいていた。


「ココアでいい?」


 そう言って差し出すと、彼女は両手を伸ばし、緩慢な動作で温かい缶に触れた。

 しっかり缶を手にしたことを確認し指を離そうとした晃の手に――ぽたりと熱い雫が落ちる。


「……?」


 晃は驚いて顔をあげた。

 彼女は泣いていた。

 薄く色付いた唇が、震えている。


「どう……したの?」


 言葉の代わりにふるふると首を振る彼女。

 缶を握りしめた両手も、唇と同じく小刻みに震えていた。

 それが寒さのせいではないことくらい、様子を見ていればわかった。

 溢れる涙を拭おうともせず、つぶやくように彼女は言った。


「ごめんなさい……」

「……何が?」

「無理ばかり……させて」

「無理?」


 意味が読み取れず、晃は訝しげに首をかしげた。


「好きじゃないのに……一緒にいさせてごめんなさい。私じゃ、晃くんの特別にはなれないってわかったから……もういいよ」


 人のいない静かな公園。彼女の澄んだ声だけが、冷たい空気を震わせる。

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