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Memory of Night 番外編

第4章 Episode of AKIRA


 必要以上に求めてこないし、無理強いをしない。他の女子と話していても、過剰な嫉妬をしない。

 いつも通りに優しい笑顔を浮かべ、女性が喜ぶセリフを囁き、手を繋ぎ、家まで送り届ける。晃が彼女にしてやることは、それだけで良かった。

 一言で言ってしまえば楽だったのだ。

 クリスマスの幾日か前。

 そんな彼女から、初めての誘いがあった。

 下校途中、震える指でおずおずと差し出してきたのは、遊園地のペアチケットだ。


「クリスマス……良かったら、一緒に行か……ない?」


 ようやく敬語をやめ、タメ口で話してくれるようになったばかりの彼女は、小さな声でおずおずとそう口にする。

 クリスマスの遊園地。おそらく混むだろう。

 面倒にも感じたが、断る理由もなかった。


「楽しそうだね。クリスマスは二人で過ごそうか」

「……うん」


 はにかむように彼女は笑った。

 そしてそのまま彼女を送り届けた時。

 その日はなぜかすぐには家に入らずに、「またね」と言って歩き始めた晃の後ろ姿をいつまでも眺めていた。

 今思えばそれが彼女なりの、精一杯の意志表示だったのかもしれないが、その頃の晃がそれに気付くことはなかった。

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