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Memory of Night 番外編

第4章 Episode of AKIRA


 びくっとした女性が、慌てて晃に視線を向ける。


「あの……」


 営業用の貼り付けた笑みが崩れ、晃を見つめる瞳は戸惑いに揺れている。

 代わりに今度は晃の方がお得意の笑顔を繰り出していた。

 白い歯を覗かせて、瞳を和らげてみせる。


「お姉さん、綺麗な手をしていますね。爪の柄もとても素敵です」

「え……」


 そうして女性の右手を柔らかく掴んだまま、甲にキスでもする気なのかと思うくらいに顔を近付け、女性の爪に甘い眼差しを向ける。

 それには、ラメが入ったピンクがベースの付け爪を被せてあった。

 チークでもとから淡いピンク色だった女性の頬は、みるみるうちに真っ赤に染まった。


(マジで三秒)


 宵は心の内で毒づいた。

 恋に落ちるまで三秒、なんて言葉があるけれど、晃が女性の手を握ってから、本当にそれくらいしか経っていない気がする。

 その猫かぶりの上手さには感心するが、女好き度合いには呆れもしていた。

 晃は隣で頭を抱える宵を尻目に、そっと店員の顎を摘んで顔を上げさせた。


「お、お……お客さ……」


 茶色い瞳で顔を覗き込まれ、店員は狼狽する。

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