
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
「庵主さま」
泉水は、思わず光照の顔を見た。
光照がうっすらと笑んで頷く。
「私がそなたに子を生みなさいと勧めるのは、私自身の経験があるからなのです。この世に二人しかおらぬ母と子でありながら、互いに憎み合い、恨み合うのは辛きこと。母は我が子の成長を傍で見守り、子は母に見守られ慈しまれていることを感じながら健やかに育つ―そんな環境が子どもにとっては必要なのですよ。あなたは、それが許されるのですから、絶対に子を生み、手許で育てるべきです。二十四年前、私には果たせなかったことを、あなたには是非果たして欲しい、我が子だけは手放さず手許で慈しみ育てて欲しいのです」
「庵主さま、庵主さまと夢五郎さんの間には、一体何があったというのですか? 庵主さまはお優しくて、どんな人をも受け容れるほど広いお心の持ち主でいらっしゃいます。それなのに、理由もなく、実のお子さまに恨まれるようなことをなさるとは、私には到底思えないのです」
泉水はたまりかねて訊ねた。光照のように慈悲深い尼君が何ゆえ、愛しい我が子を捨てるようなことになったのか。それを知りたい。
「夢五郎―?」
一瞬、光照が不思議そうな表情をする。泉水は、夢五郎との江戸での出逢いから、頼房が〝夢売りの夢五郎〟と名乗って江戸の町で夢札を売り歩いていたことまでをかいつまんで話した。
「京の屋敷を出て、江戸にいるのは知っていますが、そのようなことをしていたのですか。まあ、ほんに、あの子らしい。夢札とは、また面白いものを考え出しましたね。あの子は昔からそう、人の意表を突くというか、奇抜なことをするのが好きで。でも、心根はとても優しい、真面目な男です」
その口ぶりは徳のある尼僧でもなく、ただの子を思う母親のものに相違なかった。
「昔のことです。そうですね、今からだと二十四年前になるでしょうか。私がこの寺を建てたのが丁度、二十四年前、二十八のときのことでした。それ以前、私は京の都に権中納言藤原頼継という男の妻として暮らしておりました。頼継どのに嫁いだのは十七の時、一日も早く子が授かることを願っていたのに、良人との間に子はなかなかできませんでした。気が付けば、嫁いでもう八年が過ぎようとしていたのです」
泉水は、思わず光照の顔を見た。
光照がうっすらと笑んで頷く。
「私がそなたに子を生みなさいと勧めるのは、私自身の経験があるからなのです。この世に二人しかおらぬ母と子でありながら、互いに憎み合い、恨み合うのは辛きこと。母は我が子の成長を傍で見守り、子は母に見守られ慈しまれていることを感じながら健やかに育つ―そんな環境が子どもにとっては必要なのですよ。あなたは、それが許されるのですから、絶対に子を生み、手許で育てるべきです。二十四年前、私には果たせなかったことを、あなたには是非果たして欲しい、我が子だけは手放さず手許で慈しみ育てて欲しいのです」
「庵主さま、庵主さまと夢五郎さんの間には、一体何があったというのですか? 庵主さまはお優しくて、どんな人をも受け容れるほど広いお心の持ち主でいらっしゃいます。それなのに、理由もなく、実のお子さまに恨まれるようなことをなさるとは、私には到底思えないのです」
泉水はたまりかねて訊ねた。光照のように慈悲深い尼君が何ゆえ、愛しい我が子を捨てるようなことになったのか。それを知りたい。
「夢五郎―?」
一瞬、光照が不思議そうな表情をする。泉水は、夢五郎との江戸での出逢いから、頼房が〝夢売りの夢五郎〟と名乗って江戸の町で夢札を売り歩いていたことまでをかいつまんで話した。
「京の屋敷を出て、江戸にいるのは知っていますが、そのようなことをしていたのですか。まあ、ほんに、あの子らしい。夢札とは、また面白いものを考え出しましたね。あの子は昔からそう、人の意表を突くというか、奇抜なことをするのが好きで。でも、心根はとても優しい、真面目な男です」
その口ぶりは徳のある尼僧でもなく、ただの子を思う母親のものに相違なかった。
「昔のことです。そうですね、今からだと二十四年前になるでしょうか。私がこの寺を建てたのが丁度、二十四年前、二十八のときのことでした。それ以前、私は京の都に権中納言藤原頼継という男の妻として暮らしておりました。頼継どのに嫁いだのは十七の時、一日も早く子が授かることを願っていたのに、良人との間に子はなかなかできませんでした。気が付けば、嫁いでもう八年が過ぎようとしていたのです」
