
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第1章 《槇野のお転婆姫》
それを合図とするかのように、二人の男がいきなり女を抱え上げた。一人は女を後ろから羽交い締めにし、一人が両脚を持ち上げる。
女の甲高い悲鳴が上がった。
「おっかちゃんに何するんだ」
子どもが健気にも秋月某に飛びかかろうとするのに、秋月の倅は子どもを足蹴にした。
子どもがまるで鞠のように道を転がる。
「止めてッ」
泉水は声を張り上げた。
「あんたらみたいな奴がいるから、旗本の面汚しだって言うのよ」
泉水は叫ぶと、子どもの側に駆け寄った。泣きじゃくる子どもに手を貸して起こしてやり、秋月某をにらみ据える。
「無抵抗な女と子ども相手に乱暴もたいがいにしなさいね」
と、秋月某が泉水を見て、鼻を鳴らした。
「何だ、随分と威勢の良いガキだと思ったら、お前、女か」
「女で悪かったわね。そんなこと、あんたには関係ないでしょ」
泉水が言い放つと、秋月某は馬鹿にしたように嗤った。
「可愛い顔をしている娘のくせに、えらく活きが良いな。どこの家の娘だ?」
「それもあんたには関係ない。それよりも今すぐにその女(ひと)から手を離しなさい」
男はなおも無表情に泉水を見つめていたが、やがて、再度、仲間たちに顎をしゃくった。
「女を自由にしてやれ」
鶴のひと声で、女を抱え上げていた男二人が女を解放する。秋月の倅は泉水を射貫くような眼で見つめた。
「お前がその女の代わりに俺たちの相手をしてくれるとでもいうんだろうな?」
「冗談でしょう、私はそれほど暇じゃないし、趣味も悪くはありませんから」
泉水は負けずに言い返してやった。随分と底光りのする眼の、陰険な男だ。こんな男には気弱そうなふりを見せては駄目だと判っているから、眼を逸らそうとはせず逆ににらみ返してやる。
男がニヤリと口の端を歪めた。
「なかなか良い度胸だな。生憎と俺は気の強い女が好みなんだ。―お前、気に入ったぞ」
まるで蛇が獲物を見つけたときのように、その凍てついた眼が酷薄そうな光を放つ。
「おい、やれ」
女の甲高い悲鳴が上がった。
「おっかちゃんに何するんだ」
子どもが健気にも秋月某に飛びかかろうとするのに、秋月の倅は子どもを足蹴にした。
子どもがまるで鞠のように道を転がる。
「止めてッ」
泉水は声を張り上げた。
「あんたらみたいな奴がいるから、旗本の面汚しだって言うのよ」
泉水は叫ぶと、子どもの側に駆け寄った。泣きじゃくる子どもに手を貸して起こしてやり、秋月某をにらみ据える。
「無抵抗な女と子ども相手に乱暴もたいがいにしなさいね」
と、秋月某が泉水を見て、鼻を鳴らした。
「何だ、随分と威勢の良いガキだと思ったら、お前、女か」
「女で悪かったわね。そんなこと、あんたには関係ないでしょ」
泉水が言い放つと、秋月某は馬鹿にしたように嗤った。
「可愛い顔をしている娘のくせに、えらく活きが良いな。どこの家の娘だ?」
「それもあんたには関係ない。それよりも今すぐにその女(ひと)から手を離しなさい」
男はなおも無表情に泉水を見つめていたが、やがて、再度、仲間たちに顎をしゃくった。
「女を自由にしてやれ」
鶴のひと声で、女を抱え上げていた男二人が女を解放する。秋月の倅は泉水を射貫くような眼で見つめた。
「お前がその女の代わりに俺たちの相手をしてくれるとでもいうんだろうな?」
「冗談でしょう、私はそれほど暇じゃないし、趣味も悪くはありませんから」
泉水は負けずに言い返してやった。随分と底光りのする眼の、陰険な男だ。こんな男には気弱そうなふりを見せては駄目だと判っているから、眼を逸らそうとはせず逆ににらみ返してやる。
男がニヤリと口の端を歪めた。
「なかなか良い度胸だな。生憎と俺は気の強い女が好みなんだ。―お前、気に入ったぞ」
まるで蛇が獲物を見つけたときのように、その凍てついた眼が酷薄そうな光を放つ。
「おい、やれ」
