
夢のうた~花のように風のように生きて~
第5章 花塵(かじん)
夕刻になると、粋なこざっぱりとした着流し姿でいそいそと今戸に出かけてゆく定市の姿を皆が苦々しい想いで見ていた。今戸に出かけた日、定市は大抵は朝帰りであった。時には翌日、日が高くなるまで戻らないこともある。
まさか、その今戸の寮に囲われているという女が行方知れずとなっているお千香だと思う者は誰一人としていなかった。
冬のある夜のことであった。
いつものように定市が訪れたのは黄昏刻であった。静まり返った閨の中は、千尋の海の底のようだ。定市は万事に派手好みで、夜具も紅絹で、お千香が着せられているのも緋色の長襦袢であった。まるで遊女屋のような室内で、女郎のようななりをさせたお千香を抱くのである。
今戸に連れてこられたその日から、お千香は一切の抵抗を止めた。が、最初に毅然と定市に言ったとおり、いくら脚はひらいても、心だけはけして男にひらこうとはしなかった。そんなお千香に苛立ち、ますます煽られ、定市はお千香に溺れ、のめり込んでゆく。お千香を靡かせようと、一晩中責め立ててみても、お千香は絶対に陥落しなかった。
定市の愛撫にも髪の毛ひと筋乱すことなく、あえぎ声上げることすらない。
だが、その夜は違った。
定市の執拗な愛撫は最近、常軌を逸していると思えるときがある。お千香を殊更責め立て、立つことさえできないほど苛むことも度々だった。
お千香の白い肌を定市の唇が執拗に辿る。 首筋から鎖骨、乳房、と次第に下に降りてゆく。この頃には、お千香の胸のふくらみは随分と豊かになっていた。その乳房を存分に愛撫された後、定市に導かれてその屈強な身体の上に腰を降ろした刹那、お千香は呻いた。
深々と貫かれた箇所から、ひそやかな快感が生まれ、身体中を駆け抜けてゆく。
「お千香、きれいだ」
定市の呟きで、お千香は初めて我に返った。定市の上にまたがり、あられもない姿で腰をくねらせる自分に気づいたのだ。
お千香は愕然とした。
自分は、ただの売女になってしまった。身体を弄ばれるだけならまだしも、こんな男に抱かれて歓びの声を淫らに上げるとは。
お千香の中で言いしれぬ哀しみが生まれた。この夜から、お千香は本気で死を考えるようになった。
まさか、その今戸の寮に囲われているという女が行方知れずとなっているお千香だと思う者は誰一人としていなかった。
冬のある夜のことであった。
いつものように定市が訪れたのは黄昏刻であった。静まり返った閨の中は、千尋の海の底のようだ。定市は万事に派手好みで、夜具も紅絹で、お千香が着せられているのも緋色の長襦袢であった。まるで遊女屋のような室内で、女郎のようななりをさせたお千香を抱くのである。
今戸に連れてこられたその日から、お千香は一切の抵抗を止めた。が、最初に毅然と定市に言ったとおり、いくら脚はひらいても、心だけはけして男にひらこうとはしなかった。そんなお千香に苛立ち、ますます煽られ、定市はお千香に溺れ、のめり込んでゆく。お千香を靡かせようと、一晩中責め立ててみても、お千香は絶対に陥落しなかった。
定市の愛撫にも髪の毛ひと筋乱すことなく、あえぎ声上げることすらない。
だが、その夜は違った。
定市の執拗な愛撫は最近、常軌を逸していると思えるときがある。お千香を殊更責め立て、立つことさえできないほど苛むことも度々だった。
お千香の白い肌を定市の唇が執拗に辿る。 首筋から鎖骨、乳房、と次第に下に降りてゆく。この頃には、お千香の胸のふくらみは随分と豊かになっていた。その乳房を存分に愛撫された後、定市に導かれてその屈強な身体の上に腰を降ろした刹那、お千香は呻いた。
深々と貫かれた箇所から、ひそやかな快感が生まれ、身体中を駆け抜けてゆく。
「お千香、きれいだ」
定市の呟きで、お千香は初めて我に返った。定市の上にまたがり、あられもない姿で腰をくねらせる自分に気づいたのだ。
お千香は愕然とした。
自分は、ただの売女になってしまった。身体を弄ばれるだけならまだしも、こんな男に抱かれて歓びの声を淫らに上げるとは。
お千香の中で言いしれぬ哀しみが生まれた。この夜から、お千香は本気で死を考えるようになった。
