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スイーツ・スイーツ

第2章 復讐への序章

鏡子は椅子から立ち上がった。
「ま、場所を換えて、お話を伺いましょう」
「はい」
瞳もごく自然に立ち上がり、二人は準備室を出ていった。

この準備室の出入口は一つしかない。貸出しカウンターから閲覧室へ出られるだけだ。

私は、警策が残されているのを確認する。大丈夫、凶器は携行していない。

「きっとバルコニーに行くのね」
理恵子先輩がつぶやいた。

図書閲覧室は3階の端にあり、一畳くらいの張り出しバルコニーがついている。
グラウンドに全校生徒が集合した俯瞰写真はここで撮って、卒業アルバムに載るのだ。

「どっちが、『チャンチャンチャーン』やると思う?」

バルコニーは崖じゃないんだけどな。



中学3年の夏休み初日、というか終業式の帰り、

その女子中学生はわけもなく急いでいた。

駅の跨線橋を走り抜け、多くの人が溢れるホームへ駆け降りた途端、足がもつれた。
そこで単純に転べばよかったのだ。
無理をしすぎた。
肩のバッグの重さに引きずれながら、バランスを立て直そうとしたまま、
彼女は、線路に落ちた。

――気がついてみると、

赤い電車が止まっていた。

そのすぐ横に、白いものと赤いものが見えた。
白は滝見女子高の夏の制服で、赤は言うまでもなく、おびただしい血だった。

地面に叩きつけられ、動けなくなった女子中学生を助けようと、とっさに飛び降りた女子高生は、女子中学生を線路上から引きずり逃がすのは間に合ったが、自分が逃げ遅れて、急ブレーキが間に合わなかった電車に接触してしまったのだった。

その女子中学生(当時)は、入江若葉。
女子高生(現在も)は、松山佳奈恵。

私は打撲傷ですんだが、松山佳奈恵は足の指を2本喪う、1ヶ月の重傷だった。

それでも普通なら、どんな重傷でも、命が助かってよかったということになるだろう。

しかし、松山佳奈恵は、中学時代に100mの市の記録を更新し、高校1年で県のタイ記録をマークした、将来有望な陸上の選手だったのだ。



「つまり、入江先輩を助けたために、松山とかいう先輩は選手生命を絶たれたと」
「そういうこと」

理恵子部長が答えてくれた。

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