
コーヒーブレイク
第4章 十字架を背負うとき
たとえ私服だったとしても、私の正体はすぐわかったのだと思う。
受付係は親類の人だった。
たちまち怒号と罵声を浴びた。
暴力沙汰の寸前だった。
斎場の人が仲裁に入り、このまま帰るように勧告された。
頭を下げて退出しようとしたとき、
「待ちなさい」
と声がかかった。
喪主である父親だった。
「このお嬢さんに罪はありますか?」
静かな声だった。
◆
表面的には静かになった通夜の場。
線香を手向け、合掌する。
心が押しつぶされそうになる。
それでも、気づいた──遺影がない。
恐らくは、喪主が一時的に隠しているのだろう。
なぜ?
答えは一つしかない。
私が、記憶に刻むことをしないように。
私が、早く忘れてしまうように。
こらえていた涙が溢れた。
そっと、肩に手を置かれた。
喪主の父親だった。
なにか、唱えている。
衆生無辺誓願度。煩悩無数誓願断。法門無盡誓願知。仏道無上誓願成。
善も悪もなく、あらゆる者を、許し、救うために精進します。
そういう誓いの宣言だと、あとで知った。
受付係は親類の人だった。
たちまち怒号と罵声を浴びた。
暴力沙汰の寸前だった。
斎場の人が仲裁に入り、このまま帰るように勧告された。
頭を下げて退出しようとしたとき、
「待ちなさい」
と声がかかった。
喪主である父親だった。
「このお嬢さんに罪はありますか?」
静かな声だった。
◆
表面的には静かになった通夜の場。
線香を手向け、合掌する。
心が押しつぶされそうになる。
それでも、気づいた──遺影がない。
恐らくは、喪主が一時的に隠しているのだろう。
なぜ?
答えは一つしかない。
私が、記憶に刻むことをしないように。
私が、早く忘れてしまうように。
こらえていた涙が溢れた。
そっと、肩に手を置かれた。
喪主の父親だった。
なにか、唱えている。
衆生無辺誓願度。煩悩無数誓願断。法門無盡誓願知。仏道無上誓願成。
善も悪もなく、あらゆる者を、許し、救うために精進します。
そういう誓いの宣言だと、あとで知った。
