
やぶさめ【3ページ短編】
第1章 サメとの約束
元禄の時代
父とキジ狩りに来ていた朝露丸(あさつゆまる)
竹やぶのしげみの動く気配に弓を放った
イノシシか鹿の子供てあろうかと思っているとヤブから出てきたのは奇妙ないきもの
まるで“サメ”だ
どうしてこのような山の奥に、海で暮らすサメが?
しかも驚くことにサメは女の着物をまとっていたのだ
気味悪がる朝露丸だが、父はたいそう喜んだ
幼い息子があやかしを射抜いたと満足げだ
そうそうにキジ狩りを終え、急いでサメを屋敷に持って帰ることになった
屋敷の中庭にある小さな池に放ってみる
死んだら燻製にして飾ろう、生きていればこの池で飼ってやろうと父は言う
翌朝、誰よりも早く起きた朝露丸は寝床を飛び出し一目散に外へ出た
するとサメはちょこんと池のふちに腕組みをしており、こちらへお辞儀をするのだ
「坊っちゃん、殺さず生かしてくれてありがとうございます」
「ややや??? 人語を解すとはやはりあやかしのたぐいか、これいかように?やはり生かしておけぬかもしれん」
「ええっ? せっかく助けてくださったのに、いまさらとどめを刺そうなんて殺生でございます
助けてくれたら一族が繁栄するようお手伝いしますよ?」
「そうかそうか、それならば生かしてやろう
この池で暮らすがいい」
「いえいえ、このような小さき池では妖力が出ませぬ、お手伝いも茶碗運びくらいしか出来ませんよ?元いた山の奥に返してください
あの近くに大きな湖があったでしょう?
あそこならふんだんに私の妖力が使えまするうえ、坊っちゃんのお力になれること間違いなし
坊っちゃんは一生安泰ですよ」
「しかしなぁ、父上はお前をここで飼うと言うておったからな、父は一度決めたら腹を変えんぞ」
「ならば替え玉をここへ残しておきましょう
それしきお安い御用です
しかし替え玉の効果はじきに切れてしまい、いつか気づかれてしまうかもしれません
わたしが月に一度山から降りて、こちらに通いましょう、来るたびに新しい替え玉を残しておきます、それならいかがでしょう?」
「あいわかった、ではさっそく替え玉をこさえてくれ」
するとサメは赤い着物の袖から一匹の金魚を取り出し、むむむと念じる
金魚は巨大なサメになってゆっくりと池の中を泳ぎ始めた
朝露丸は池の中を悠々と泳ぐサメに扮した金魚を眺めながら考えた
