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お題小説 labyrinth(心の迷宮)

第1章 ラビリンス(labyrinth)

 9

「え、ど、どんな夢なの?」
 わたしは彼に問う。

「あ、うん、うーんとねぇ、少し変な夢なんだけどね」

「うん…」

「あのね…………」

 ……………あれは多分、3歳くらいの夏だと思うんだけど、公園で遊んでいたらさぁ…
 一緒に居たはずの父親が見当たらなくて迷子になっちゃってさぁ…
 泣きながら公園を探し回るんだけど、真夏の暑さに疲れきっちゃってヘタっちゃうんだよ…
 そして悲しくて悲しくて泣き叫んで…
 でも泣くのにもさ疲れきっちゃって…
 
 そしたらさ…
 チリン、リン、チリリン、リン…
 …って、どこか遠くから風に乗って風鈴の鈴の音色が聞こえてきて、ハッと目覚めるんだよ…

 そして暫くはその鈴の音色が耳の奥深くで、まるで余韻みたいな感じで小さく聞こえ続けて……………


「えっ、うそっ、そ、それ、その夢、ほぼわたしの夢と同じよっ」
 わたしは驚いてしまう。

 まるでわたしと同じ夢…
 
「え、そうなの?」
 彼も驚きの声音で訊いてくる。

「うん、そう、ほぼ同じ夢…」

 わたしの心が一気にザワザワと騒めき始め、不思議な感覚が心の中に広がってくる…

「そ、そんなことって?」

「あ、うん、だけどね、わたしの夢は母親なの…
 母親が居なくなったの…」

 そして彼の夢は…父親だ。

「え、母親が?」
 彼の表情を伺うと、やはり、わたしと同様に、心が激しく揺らいで見える。

「うん、母親なの…
 でね、実際にね、わたしには母親はいないの…」

「え、そ、そうなの?」

「えぇ本当よ…
 あ、だけど死別ではなくて離婚したんだって…」
 そしてわたしは父親側に引き取られ、育てられたのだ。

「えっ、そ、そうなのっ?」
 すると彼は驚きの声を上げ…

「お、オレは父親が…
 そう、やっぱり離婚して、オレは母親側に…」

「え、そ、そんなことって…」

 それはわたしと同じ…
 いや、真逆に同じなのだ。

 そしてそんなことがあるのかと…

 驚きを隠せない…



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