革靴を履いたシンデレラ
第5章 魔女のタマブクロモドキ
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本人の意向と関わらず、親の決めた相手の元に遠い国へと嫁ぐ。 もし自分なら耐えられるだろうか、と今の彼は思うのだ。
そんな風に考え始めた自分自身にシンデレラは内心驚いていた。
「ふう。 やっぱり脳天を割る前に傷をつけ過ぎたわね。 肉質が少し悪くなってしまったわ」
「熊は元々、味は他より落ちるからな。 鹿やなんかも捕りたかったが」
「鹿は逃げ足が早いから。 実際、好戦的な獲物の方が楽なのよねえ。 今度は弓も持って行きましょう」
フォードリアでも活気のある市場が並ぶ通り。
人目を引く若い男女の二人連れが雑談をしながら歩いていた────それぞれ50キロほどの肉を両脇や肩に抱えて。
「────もし、ちょいとそこのアンタ方」
その声にルナが振り向き
「こちらですじゃ」
店の隙間にある路地の、入り口に座っている老婆に目をとめた。
「姉さん行こう。 フォードリアじゃ特に、外にいる物売りには注意するようにって言われてるじゃないか」
その土地の決まりごとがあるのはフォードリアの街でも例外ではない。
「ええ、でも物なんてどこにも……?」
「フォフォ…アタシはただの占い師でさ。 良かったらみさせてもらえないかい? アタシは綺麗で強い者が好きでね。 自分はこのとおり、足腰も立たずに使い物にならない婆だから」
「まあ気の毒に……今日はお肉ならたくさんあるのよ。 シンデレラ、少し休んで行きましょうよ。 楽しいお話を聞けるかもしれないわ」
(ふう。毎度ながら、小姉さんはお人好しで困る)
気軽に老婆へと足を向けるルナの後をシンデレラが追う。
その人物は特段、粗末な身なりをしているようではなかった。
(それに老婆というわりには、やけにどこか若々しい)
確かに顔はシワだらけなのだが、とシンデレラが相手の様子を伺う。
「旦那さん、陽のような綺麗な髪だね……そういえば、すこおし前に、見事な金髪の子供が来たよ。 同じ色の子猫を抱いてね。 来月に嫁入りするのを悩んでいるようじゃった」
老婆の前にしゃがんでいたルナが思わずシンデレラの方を振り向く。
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