
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第5章 想い
「大体、いつもはろくに家に寄り付きもしないあなたがこんな風に家に帰ってくること自体が変なのよ」
母の言葉に、莉彩は苦笑する。
「失礼ね、お母さんたら。それじゃ、私が都合の良いときだけしか顔を見せない自分勝手な娘のようじゃない」
母はそれに対しては否定も肯定もしなかった。
「だからこそ心配なのよ。急にママやパパの顔を見たくなっただなんて、また、莉彩が前みたいに急にいなくなったら―」
そこで、母は口を閉ざした。
昨夜もこれと似たやり取りがこのキッチンで交わされたばかりなのを思い出したのだろう。
―ママはいつも心配なの、莉彩が十年前のときのように急に私たちの傍からいなくなったら、どうしようと思っただけでも居ても立ってもいられなくなるのよ。
しかし、そのときは父の一喝で会話は中断された。
―止さないか!
父の怒鳴り声は、あまりにも不自然だった。母のたったひと言だけで、普段はあまり感情を表に出さない父が取り乱した。そのこと自体が、父もまた母と同じように内心はひそかに十年前の娘の失踪をいまだに重く受け止めているのだと証明しているようなものだ。
そのせいで、和やかだった夕食はまるで通夜のように沈んだ最悪の雰囲気となってしまい、父も母も莉彩もがひたすら黙ってシチューをスプーンで掬い続けた。
またしても静まり返ったその場を取り繕うかのように、母が甲高い声で静寂を破った。
「ね、お夕飯はうちで食べていくんでしょ」
「うん、でも、七時きっかりの飛行機に乗らないといけないから、ちょっと難しいかな」
自宅からY空港までは車で一時間半はかかる。父の帰宅を待っていたら、七時の飛行機に乗るのは難しくなるだろう。
Y空港から直通便で二時間で北海道に着く。莉彩は大抵は、短時間で行き来できる飛行機を利用している。
「あら、でも、パパは一緒にお夕飯を食べようって言ってたじゃないの」
母の言葉に、莉彩は苦笑する。
「失礼ね、お母さんたら。それじゃ、私が都合の良いときだけしか顔を見せない自分勝手な娘のようじゃない」
母はそれに対しては否定も肯定もしなかった。
「だからこそ心配なのよ。急にママやパパの顔を見たくなっただなんて、また、莉彩が前みたいに急にいなくなったら―」
そこで、母は口を閉ざした。
昨夜もこれと似たやり取りがこのキッチンで交わされたばかりなのを思い出したのだろう。
―ママはいつも心配なの、莉彩が十年前のときのように急に私たちの傍からいなくなったら、どうしようと思っただけでも居ても立ってもいられなくなるのよ。
しかし、そのときは父の一喝で会話は中断された。
―止さないか!
父の怒鳴り声は、あまりにも不自然だった。母のたったひと言だけで、普段はあまり感情を表に出さない父が取り乱した。そのこと自体が、父もまた母と同じように内心はひそかに十年前の娘の失踪をいまだに重く受け止めているのだと証明しているようなものだ。
そのせいで、和やかだった夕食はまるで通夜のように沈んだ最悪の雰囲気となってしまい、父も母も莉彩もがひたすら黙ってシチューをスプーンで掬い続けた。
またしても静まり返ったその場を取り繕うかのように、母が甲高い声で静寂を破った。
「ね、お夕飯はうちで食べていくんでしょ」
「うん、でも、七時きっかりの飛行機に乗らないといけないから、ちょっと難しいかな」
自宅からY空港までは車で一時間半はかかる。父の帰宅を待っていたら、七時の飛行機に乗るのは難しくなるだろう。
Y空港から直通便で二時間で北海道に着く。莉彩は大抵は、短時間で行き来できる飛行機を利用している。
「あら、でも、パパは一緒にお夕飯を食べようって言ってたじゃないの」
