
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第9章 MooN Light
莉彩は読み終えた手紙を折り畳み、胸に抱いた。閉じた眼からひとすじの涙が流れ落ちる。
「不思議な老翁でした。商人と名乗ってはいましたが、まるで学者か僧侶のような―、何と申して良いのか、とにかく並々ならぬ風格のある者でございました。その者の申すには、あなたは、その者の店の前に倒れていたとのことです。都の外れで小さな店を営む布商人だとかで、普段は店にいることよりも行商ををしていることが多いのだとか。今日の夕刻、いつものように帰ってきたところ、あなたが倒れていたゆえ、たいそう愕いたと申しておりました」
その老人は莉彩と淑妍が知己であることを知っており、とりあえずここに連れてくれば良いと判断したそうである。
淑妍が幾ら問うても、彼は名も名乗らず、試しに後で老人の応えた住まいを家人に訪ねさせたところ、確かに布商人らしい老人が住んでいたという住まいはあったものの、どこかに旅に出たものか、もうかれこれ数年間、その者はここに帰ってきてはいないとのことであった。
隣家の住人の証言を裏付けるかのように、その小さな家には長らく人の住んだ形跡はなかった―。
「その者が何ゆえ、淑容さまと私の拘わりを知っていたのかは面妖ではありますが、あなたをよく存じておったようでございますから、その関係で私のことも知っていたのでしょうか」
淑妍は小首を傾げながらも、老翁のことはたいした問題ではないと割り切っているようだ。元々、頭の切り替えも回転も早い人なのである。また、さもなければ、伏魔殿といわれる宮殿―後宮で生き抜くことはできなかっただろう。
「あなたの倒れていた傍でこの子が泣いていたそうです。私が何を訊ねても、最初は泣いてばかりだったのですが、とりあえずは、私が害をなすものではないということだけは理解してくれたようですね。子どもというのは元々、大人が愕くほどの順応力があるものです」
と、淑妍の話題が再び聖泰に戻った。
「淑容さま、このお子は、むろん、あなたのお生みになったお子なのでしょう?」
莉彩は小さく頷き、それから淑妍を真すぐに見つめた。
「お願いです、淑妍さま、どうかあの方にはこのことをお話しにならないで下さい」
「それは、何故?」
流石に淑妍も愕いたように眼を瞠った。
「不思議な老翁でした。商人と名乗ってはいましたが、まるで学者か僧侶のような―、何と申して良いのか、とにかく並々ならぬ風格のある者でございました。その者の申すには、あなたは、その者の店の前に倒れていたとのことです。都の外れで小さな店を営む布商人だとかで、普段は店にいることよりも行商ををしていることが多いのだとか。今日の夕刻、いつものように帰ってきたところ、あなたが倒れていたゆえ、たいそう愕いたと申しておりました」
その老人は莉彩と淑妍が知己であることを知っており、とりあえずここに連れてくれば良いと判断したそうである。
淑妍が幾ら問うても、彼は名も名乗らず、試しに後で老人の応えた住まいを家人に訪ねさせたところ、確かに布商人らしい老人が住んでいたという住まいはあったものの、どこかに旅に出たものか、もうかれこれ数年間、その者はここに帰ってきてはいないとのことであった。
隣家の住人の証言を裏付けるかのように、その小さな家には長らく人の住んだ形跡はなかった―。
「その者が何ゆえ、淑容さまと私の拘わりを知っていたのかは面妖ではありますが、あなたをよく存じておったようでございますから、その関係で私のことも知っていたのでしょうか」
淑妍は小首を傾げながらも、老翁のことはたいした問題ではないと割り切っているようだ。元々、頭の切り替えも回転も早い人なのである。また、さもなければ、伏魔殿といわれる宮殿―後宮で生き抜くことはできなかっただろう。
「あなたの倒れていた傍でこの子が泣いていたそうです。私が何を訊ねても、最初は泣いてばかりだったのですが、とりあえずは、私が害をなすものではないということだけは理解してくれたようですね。子どもというのは元々、大人が愕くほどの順応力があるものです」
と、淑妍の話題が再び聖泰に戻った。
「淑容さま、このお子は、むろん、あなたのお生みになったお子なのでしょう?」
莉彩は小さく頷き、それから淑妍を真すぐに見つめた。
「お願いです、淑妍さま、どうかあの方にはこのことをお話しにならないで下さい」
「それは、何故?」
流石に淑妍も愕いたように眼を瞠った。
