
マッチ売りの少女と死神さん
第4章 1月1日…それはかわいい君のせい
(唾でもかけられそうな勢いだし。 この爺さんは間違いなく地獄行きなんだろうなあ……いいなあ)
背中で怒声をやり過ごしつつ、ホーリーは再び道を歩き始めた。
ホーリーは自分の存在意義が揺らいでいるのを感じていた。
……もしもサラが『いざ』となった時。
自分は彼女を堕としてモノにするどころか、傍にもいられない可能性が高い。
サラが天へ還ってしまったらもう二度と会えない。
「まあ、とにかく……帰ろう」
ホーリーはもう一度頭上の並木を見上げた。
木々の枝はまるで、決して創造することが出来ない網目のように、複雑に絡んでいた。
厳しい寒さで休眠中であるにも関わらず、ものも言わない生命の迫力に圧倒されそうだ。
ここでの自分の存在がとてつもなく小さく頼りなく感じる。
ふと、毎朝毎晩、凍えた体で街頭に立ち働いていたサラを思い出した。 独りっきりで、他人にそっぽを向かれても声を掛けていた。 彼らの、ちょっとした優しい言葉に顔を綻ばせては後ろ姿を見送り、悴んだ手を吐息で温めてから前へ進む。
こんな世界でなぜ彼女はそんな事が出来たのか。
延々と立ち並ぶ木々からは温かみなど感じなく、ただ寂寞とした冷たさしか感じられない。
それなのにまるで突き放されるかのような恐ろしさから目が離せない。
「冥界と同じ黒なのに……なんて荘厳なんだろう」
白い息を吐いたホーリーは静かに呟いた。
