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マッチ売りの少女と死神さん

第11章 1月4日…愛する君へ捧ぐ



「……オレを置いていくのか」

消え入りそうな父親の声にサラは驚いて目をあげた。

「アンタが居るからって、この人はいつまで経っても再婚しなかったんだよ」

サラは困惑しているようだった。

ソフィアの表情は疲れているように見えた。
中年に差しかかる女の悲愴な様子がサラの同情を買ったのか。

「辛く当たっちまったのは……だって、アタシはいつまでも愛人って陰口を叩かれるんだ」

「わ、私は」

一歩、二歩とサラが後退る。

思いがけない弱気な彼らの態度に混乱しているのか、サラの顔は蒼白だった。


カシャン、と乾いた音がし、床の上にサラがコートのポケットに入れていたナイフを落とした。

それを見たソフィアの顔色が変わる。

「……そんなものでアタシに仕返しをしようとしたのかい」

「サラ? お前、まさか」

「これは……いいえ」

なぜあんなものをサラに贈ってしまったのだろうと、ホーリーはこの場面を観るたびに後悔を覚える。

しゃがんだサラがそれを取り鞘を抜く。

「ヒッ」

ホーリーはサラに贈る直前に、それを模造と入れ替えておいたのだった。
しかし傍目には本物の刃物と相違は無い。

「作り物で」

「あ、アンタさえ居なければ……!!」

サラが言いかけると同時に、キッチンの引き出しから包丁を取り出したソフィアが父親の腕を切りつけた。

「っ!??」

……正しくは、サラを庇おうとした父親が盾になって彼女の前に立ちはだかった。

「お、お父さん!!!」

刺された腕を抑えた父親は顔を歪めた。
瞬間にソフィアが手放した包丁からは今度は硬質な重い音がした。

「そんな、ことをしちゃ……いけない」


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