
マッチ売りの少女と死神さん
第10章 1月4日…死神さんに恋をしました
宝玉の中には絶え間ない人々の姿がある。
笑い、泣き、慈しみ、人の隣には親なり子なり、恋人であり友であり、何かしらの人がいる。
だが彼らは決して自分たち死神の姿を見てはくれないのだ。
『いらっしゃい、今日は美味い魚が入ってるよ!』
宝玉の中で威勢のいい男の声が聞こえ、死神は口をパクパク動かしてみた。
この地域の時代にこの時節。
死神は言語や歴史はおろか、地理をはじめ化学や芸術、人の世界のありとあらゆるものに精通していた。
────キョウハ、サワラヲモラオウカナ?
『へへ。 実は、息子の成人なんだよ。 今日はサワラを貰おうかな』
(……また少し間違ったなあ)
自分の答えはいつも何かが欠けているらしい。
死神は一人遊びを繰り返した。
死神とは人々を導くためにある。
神が与えた自分の存在意義だと思っている。
部屋の中の赤い模様。
よく見ると、それらは文字になっているようだった。
……生涯の孤独に耐え続けたしるし。
おそらくこの血文字は先代の記録だろう。
同族が生きたという唯一の証なのだろう。
────Decaided to my
〈私の……に捧ぐ〉
入り口の下の方に、岩肌に書かれた何十列もの文字が、異なる言語や書体で並ぶ。
捧げる対象の、『my』の続きは全て無かった。
