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ジェンダー・ギャップ革命

第10章 正義という罪悪



「お茶、有り難う」

「…………」

「愛津ちゃんと話したの。私は女性達を守る。そこには、彼女や織葉も含んでいる」


 それは、あまりに腑に落ちた。

 織葉とてえれんの志より私的な感情を重んじたなら、とっくに行方をくらませていた。不特定多数の幸福など欲しがらないで、一度は手に入れた愛おしさを離さなかった。





「人間、利己的にしかなれないんですよ。無償の愛を夢見て良いのは、中学生までです」

「それは中学生に失礼じゃない?」

「神倉さんだって、カッコイイ女性が皇子様になってくれたら……なんて妄想していたんでしょ。愛津ちゃんに聞きました」


 えみるの無断欠勤から数週間後の休日、織葉は彼女と駅前にいた。

 えれんも自分も無名なら、こうも多くの関係者達に、迷惑をかけなかっただろうか。

 そうしたことをぼやいた織葉に、彼女は、もしもの可能性などないと言って否定した。


「私が「清愛の輪」を抜けられなくて、チャンネルのアカウントも残しているのと同じです。世のため人のために、私が社会と関わっているんじゃありません。いつか大義を成せたらなと、何かしている自分が好きで、誰かの記憶に残れるかも知れないと、期待しているからです」

「それは、一理あるね」

「だから、余計に神倉さんは許せません。いっそ織葉さんに無理矢理迫って、束縛していた……と説明されていた方が、マシでした」

「ごめんね、お母様を選んだのは私。父親は特定出来ないなんて言われてても、どうせお母様を苦しめた人間には違いない。そんな血が流れているってどう思うか……訊いてくる記者もいたけど、どうとも思わないよ。お母様や、似た境遇の人達が苦しんだ分、私は今後一人でもそうならない未来の助けになりたかった」

「ですよね。それが、織葉さんのための行動ってことですよ。悲しいけど、私は近くで片想いしていられたら、それで満足」

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