テキストサイズ

止まない雨はない

第8章 Fallen Angel

“……ん?ルカぁ?………うっそ?マジかよ、あのルカ?
久しぶりだなぁ…。お前、噂ではドイツに行ったって聞いてたぞ??”

「あの……実はワケあって、あっちの病院を辞めて日本に戻って来ていたんです」

ルカは以前、大学時代にクラッシック音楽の同好会に所属していた。
その時の縁で知り合ったのが、この福士である。

「…ところで福士先輩こそ、相変わらず音楽に携わってるんですか?」

“まぁーな。大した金になるわけじゃねーけどな。死んだ親父の遺してくれたピアノとこのスタジオは、今となっちゃ、オレのライフワークなワケよ”

福士の父はかつて、著名なピアニストであった。
自宅とは別にスタジオを持ち、そこにヨーロッパの一流グランドピアノを置き、演奏会の合間には篭ってレッスンの場にしていたのだという。

そんなスタジオとピアノも、今は主が亡き後、音楽やピアノを愛する者にだけに、という条件で、息子の良が管理し、貸しスタジオになっていたのだ。

“で、久しぶりだけど何か用か?”

「はい………実は……」

ルカは良にスタジオとグランドピアノを一年間貸してくれるように、と交渉を始めた。

“………おいおい?一年って…結構馬鹿にならないぞ?まぁ、後輩のお前だし、一般に貸すよりかは安く貸してやるつもりだが、維持費やら、保険やらあるからなぁ…”

「お願いします。費用なら幾らでも可能な限り出します。ですから…」

“まぁ……そうまで言うなら。で、今、近くまで来てるンなら、
そこから1分もかからないから、一度来てみてから考えてもいいだろう?”

「はい」


熱心なルカの言葉に、良も前向きに応じてくれる様子である。

ルカは聞いた道順のとおり、彼のスタジオを訪ねるのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ