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どこまでも玩具

第10章 晴らされた執念

「みぃずきが今云った通りだよ。おれには愛してくれる人が一杯いる。また院になんか入って人生無駄にしたくないから」
 チャリ。
 右手から鍵が現れる。
 それを首の鎖の鍵穴に差し込み、ゆっくり回した。
 カチャン。
 鎖が重力に従い、落ちていく。
 ガシャン。
 重厚な衝撃音が響いた。
 俺はそこで気づいた。
 さっき、刺したときか。
 あれは、鍵を奪うためだったんだ。
 アカは振り返り、そうだよと言うように口端を上げた。
「借り、二つ目だから」
「……借り?」
 アカは類沢の元に歩き、ナイフを要求するよう手を差し出す。
 類沢も無言で渡した。
「おれが父さんを生かしてあげる」
 襟梛が小さく声を上げる。
「否定出来ないよね。だって、父さんはそれを知っているんだから。覚えてるんだからさ」
 男は、驚きもせず。
 怒りも見せず。
 黙って息子を見つめていた。

 父さんは、あの晩おれが何をしたかハッキリ覚えているって言った。
 あの誓いも。
 二人で、暮らそう。
 でも、父さんはいくつか勘違いをしているんだ。
 確かにあの日、おれはあなたを殺さなかった。
 多分、出来なかったんだと思う。
 怯えてしまったから。
 そして、どこかに父さんの束縛が残っていたから。
 無理やり誓わせたあの晩、こうも言ったよね。
「もしも、おれが死ぬときは哲も一緒に連れて行ってやる。逆も同じだ」
 だから思った。
 ひょっとしたら、本当に父さんが死んだら、おれも死ぬかもしれない。
 心臓に届く前に、ナイフを抜いたのもそれが過ぎったから。
 迷ったから。
 気づけば、救急車を呼んでいた。
 悪漢に襲われた?
 そんな嘘、もっと後に吐いたって良かった。
 父が入院して、ほんのすこしだけ安心したのもある。
 生きていた。
 なら、おれも生きていられる。
 おれは父さんを憎んでいる。
 殺したいほど。
 父さんはおれを愛している。
 所有したいほど。
 だから父さんに二度と会いたくはなかった。
 会ったらこの二つの欲望がぶつかるだろう。
 それが何より怖かった。
 父が死ぬのも。
 おれが壊れるのも。
 だから、逃げた。
―これはただの躾。
 息子が犯罪者になったのは父親の責任だからな。
 誰が来たって大丈夫。父さんが守ってやるからな―
 違う。
 おれがあなたを守ってるんだ。

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