テキストサイズ

もうLOVEっ! ハニー!

第12章 騎士は王子と紙一重


 ぎし、と椅子の上で態勢を整えるような間。
「俺は……お前みたいのがクラスにいて、それに何もできないような立場で? そんなんがボス猿とかその組織終わってねえ?」
 頬を人差し指の爪で掻きながら、吐露するように。
 子供じみた声で。
「なにそれ……何するつもりだったんですか」
「べつに。何かって何かを考えてたわけじゃない。あんときは女って怖えなって思ってたくらいだし。結構楽観視してたよ。あの鉛筆削りの一件までは」
 卒業式。
 あの騒ぎの後。
 つばるが入寮した時間差。
 いったい何が起こってたんでしょう。
 彼の世界に。
 私の干渉しない世界には。
 いったい何が。
 スプーンが指から落ちる。
 コトリと。
 白い液体に沈む。
「何が……あったんですか」
 つばるは虚空を睨むように、ただ口をつぐんだ。
 ここに来た時のつばるの印象は最悪だった。
 突然の来訪、歓迎会では異様な空気を発して、私の部屋に無理やり押し入って傷つけた。
 まるで、今とは別人のように荒立っていた。
 こばるさんと和解してから態度は優しくなったように思う。
 そう。
 あの時のつばるは中学のときよりも怖かった。
 何かに追い立てられているように、私を犯した。
 よく覚えている。
 消去したくても、何故こんなにもってくらいに無理やりに、でも優しく抱かれた感覚を。
 霞みがかっている部屋の中で。
「俺がしたことは訂正も弁解もできない。お前がこうやって並んでアイス食べてるのも信じられないくらいのことをした。偉そうに……警告したり……あほだな。目も当てらんねえ」
「やめてください。そういう風に卑下するの」
 本当に時にわからない。
 早乙女つばるという人間が。
 いや、みんなそう。
 みんなそうじゃないですか。
 きっと、つばるもそう思っている。
「……俺がなんでここに来たかってのは、お前と同じじゃねえかな」
 さらりと、沈黙を破った。
 奥歯をかみしめる間もなく。
「同じ……」
「過去のあの俺を消したかった。馬鹿みたいにセックスに耽って。薬に手を出してる連中とつるんで。なんとなく楽で。でも、兄貴の部屋からここのパンフ見つけて……生まれ変われんじゃないかって。本当あほみたいだろ。お前に話す話じゃねえよな」
 ええ。
 私たちはいつもあほみたいな話しかしてませんけどね。
 熱くなってきた目頭を押さえる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ