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もうLOVEっ! ハニー!

第12章 騎士は王子と紙一重


 女に生まれたことを絶望したのは小学五年生のとき。
 当時好きになった子は一つ下の近所の幼馴染。
-美弥ちゃん、ずうっとともだちでいてね-
 そのころは先輩後輩もなく、彼女は笑って私に、ボクにそう言った。
-ずうっとね-
 女の子の友情は時に恋愛よりも縛りが強く。
-あの子ね、好きな子ができたのよ。応援してあげてね-
 その母親からの言葉を聞いたときに悟った。
 内から沸いてきた殺意とともに。
 これは、友情の独占じゃない。
 もっと、もっと強くて、醜い。
 だからこそ、苦しんできた。
 エリの時だって……。
-好きよ、美弥。美弥が美弥でいてくれたらそれでいいくらいに大好き-

 エリの残像が目の前にちらついて頭に血が上った。
「離せっ! お前なんかタイプじゃねえんだよ」
 突き飛ばしたアリスが扉にぶつかり、その肘が偶然か鍵を押し開けて外に飛び出して倒れた。
 息を切らして手を伸ばしたままの美弥の視界に、あっけにとられて沈黙した生徒たちが写る。
 長い髪の間で微笑むアリスも。
 上履きがタイルを踏む音。
「ちょっと、大丈夫?」
「アリスちゃん、立てる?」
「なんで個室から二人……」
「あの人、先輩じゃない? なんでここに」
 煩いその他大勢どもの声。
 嫌われるのは慣れているんだ。
 この体と心の不釣合いに。
 陸が良い例だと思う。
 一人宝塚とはよく言ったもの。
 華やかに孤独に舞う滑稽な役者一人。
 ああ、可愛そうに。
 母さんが泣いた。
 どうしてこの子は、こんな風にって。
「ごめんなさい、美弥先輩。私じゃ、先輩の慰めにならなくて」
 でもこいつは一枚上手のプロ役者だ。
 泣きそうな眼で周りに演じて見せてる。
「慰めって……」
「だから個室に?」
「あの人って華海都寮の……?」
 クソビッチを信じる愚鈍な奴ら。
 服を正して、扉を乱暴に抜けて生徒に囲まれたアリスの前に立つ。
 お前なんか、本気じゃないくせに。
 たとえ愛されなかったとしても笑える余裕を持って、楽しんでいる邪道のピエロのくせに。
 拳を握り締めて、奥歯を食いしばる。
 こんな女に好いようにやられたなんて、糞雌豚が。
 己を叱咤する声に眉を歪めて、美弥は生徒たちを押しのけて廊下に出る。
 早く、癒して。
 かんな。
 この疎外感は体に毒過ぎる。
「美弥、さん」
 かんなはすぐそばに立っていた。

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