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秒針と時針のように

第5章 一周してわかること

「てめえな……」
「オレは忍が同じとこって聞いて逝きそうなくらい嬉しいんですけど」
 やべえ。
 敬語スイッチが入った。
 パンッ。
 音に振り返ると結城が手を合わせていた。
 なんだと訊こうと口を開く前に結城は言った。
「ちなみにおれもそこでーす」
「そうかよ……って、は!?」

「驚いてんのは俺だよ」
 担任を職員室で問い詰めて初めに言われた一言だ。
「じゃあ、ま……まじであの二人もここ目指してんすか」
 机に置いた冊子をけだるく手に取る。
 あだ名はバッファローだったか、この担任。
 いつもはのろのろしてる癖して怒ると体当たりの勢いで襲い掛かってくるって有名だ。
「特に古城の方なんか夏から言ってたからな。てっきりお前ら合わせてんのかと思ってたが。水戸といつもトリオだろ。おーおー、高校まで一緒に行くのかってな。それもわざわざこの中学からは絶対不可能と言われている難問校にクラスから三人もよ。校長から呼び出しくらったくらいだぞ」
「ウソだろ……」
 バッファローは腕を組んで椅子にふんぞり返った。
 葉巻吸ってても可笑しくない貫禄がある。
「古城の方は、母親の容体があるだろ。病院を移るらしくてな、それに合わせて高校も選んだそうだ」
「ああ……そうでしたか」
 家族か。
「お前の方もいろいろ問題抱えているんだろ。昨年の行方不明騒動でどの親も警戒しながら進路を決めかねている。迷うやつらが四苦八苦している中で、お前ら三人は好い生徒だと思ってるぞ」
 穏やかな表情で。
 草食べてるときの顔だな。
 バッファローが。
 そこで担任は眉をしかめて呟いた。
「だけどな……」
「はい」
「水戸の方は面白がっているとしか思えないんだよな、俺は」
「それに関しては俺も同意見です」
「あいつ併願した方がいいと思うんだが、それは格好悪いとかぬかすんだよ」
「でしょうね」
「しかも他校の生徒だったか、今付き合ってる彼女は。その娘が行くわけでもないみたいだからな。本当にお前らは意味がわからん」
「らって言わないで下さいよ」
「プリンセスってあだ名も俺はよく意味が」
「失礼しますっ」
 職員室から出て壁にもたれる。
「それは俺も意味わかんねえですよ……」

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