解けて解けば
第1章 いち
「あっつ…」
電光掲示板が歴代最高気温を更新したと知らせる。
梅雨明け宣言にほっとしたのも束の間、容赦なく本格的な夏に突入した。
「エアコン全然効かないじゃん。」
年季の入った公用車の、車内温度は既に体温を超えている。
ペットボトルの水も本日既に四本目…。
健康のため、二リットルは飲んだ方が良いと聞いた時は無理だろうと笑ったが、今なら余裕でいけそうな気がする。
全開の窓から入ってくる風は暑さを運んでくるだけ。
こうして人は熱中症になるんだな。
「っあ~もう無理!」
私は道沿いのコンビニに立ち寄る事にした。
目的地はあと五分で着く距離だが、暑さにに対する不快の方が上回った。
…気持ちいい。
エアコンの効いた店内は外とは別世界。
ずっとここにいれたらいいのに。
「八伏先輩?」
飲料コーナーでミネラルウォーターを選んでいた時だった。
名前を呼ばれ横を向くと
「柚木君、え、柚木君?えぇーっ!嘘!」
「髪型とか雰囲気変わってるけどそうじゃないかなって。」
彼、柚木君は高校の時の部活の後輩だ。
私にすごく懐いてくれてた男の子で、実の弟以上に弟みたいな存在だった。
目がクリクリしてて女のコみたいに可愛かったんだよね。
悪ふざけして女装させたりして。
そしたら同じ部の女子よりも可愛くなっちゃって。
当時好きだった先輩まで『柚木なら付き合える』とか言い出して。
…複雑な気持ちになったことを思い出す。
「めっちゃイケメンになってるじゃん。声掛けてくれなきゃ気付かなかったよ。」
可愛らしい面影は一転、アイドルばりのイケメンに成長を遂げていた。
「久し振りだね!今何してるの?芸能人?」
「んなわけないでしょ。会社員ですよ、普通に。八伏先輩こそ…地元にいたんですね。」
「こっちで就職したんだ。私一人っ子だから。」
「そうだったんですね。」
「いやぁ、ビックリだよ。まさかこんな所で会えるなんて。」
「俺もです。…あ、良かったら連絡先交換しませんか?今度食事でも。」
「ぜひ!…って言いたいところだけど。ごめん、彼氏が独占欲強くてさ。携帯チェック厳しくて。」
同じ職場の違う部署で働く彼とは、付き合って三年になる。
独占欲、と言うか所有欲?っていうのかな。
友達からは異常だって言われた。
私は愛情表現が下手なだけって思ってるけど。
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