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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 84 呑み込む

 私は律子の休みを覚えていたのだ。

「ええ、木曜のわたしのお休みを覚えてくれていたの…」
 一気に嬉しそうな声になる。

「ああ、もちろんさ」
 やはり私はまだまだ甘い。

「嬉しい…」
 律子は本当に嬉しそうである。

「じゃあ、木曜日まで我慢しちゃいます」
 その声の響きは今までのプロの銀座の女の響きではなく、あの『夢の国』に一緒にいた素の28歳の可愛い律子の声の響きであったのだ。

「じゃあ、木曜日楽しみにしていますね、あっ、その間に店にも来れたら来てくださいね…」
「ああ、わかった」
「おやすみなさい…」
 私は電話を切った。

「ふうぅぅ…」
 そして思わずため息をついてしまう。
 そして律子の顔が浮かび、耳にはあの心震わせる心地よい声が残響していた。

 やばいなぁ…
 すっかり律子に心を持っていかれてしまっているる事を自覚していたのであらる。

 なんなんだろうか、あの律子の魅力は…
 心がまだザワザワと昂ぶっていた。

 どうしても律子には翻弄されてしまう…
 そして心を落ち着かせようと、煙草を吸う。

 カチャ、シュボッ…
 
「ふうぅぅ…」

 そういえば、ゆかりはなぜあんなに敏感に煙草の煙に反応するのだろうか…
 今度は突然に、ゆかりが浮かんできた。

 そういえば、美冴ともこの1本の煙草からが始まりだった…
 あの夜、立ち昇る煙草の煙を見つめていた美冴の不思議な姿が浮かんできたのだ。

 一気に、律子、ゆかり、美冴、と、3人の美しい魅力溢れる女達が脳裏に浮かんできたのである。

 ああ、ダメだ、ダメだ…
 未だに全然、ギラギラに尖れていない、ワイルドとはほど遠い。

 結局3人の彼女達に翻弄されっ放しのままじゃん…
 我ながら情けない。

 いよいよ明日からが、始まりといえるのだ、絶対に失敗できない大勝負の始まりなのだ…
 こんなんでは本当に彼女達に、いや、仕事のプレッシャーに、重責に、呑み込まれてしまう。

 木曜日の律子…
 望むところだ。

 明日から毎日の様に顔を合わせるだろう美冴…
 望むところだ。

 新部長に昇進し、恐らくしばらくはひがみ、やっかみからの中傷等もあるであろうゆかり新部長…
 望むところだ、私がちゃんと導いてやる。

 そうだ、みんなまとめて呑み込むんだ…

 いや、呑み込んでやる。




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