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　91　母親の想い

「今夜は帰らないとね…
　まだ、母親が色々と心配してくるのよ…
　ほら、『黒い女』から復活したばかりで色々と不安定なのもわかっているからさ…」

　だが、この話しは本当なのである。

　わたしが先週末に大原本部長に抱かれて、それがきっかけとなり『黒い女』から復活して、新たなる出発の為のカラフルな洋服を買い、髪をカットして帰宅した夜に涙を流す程に喜んでくれた母親…

　そして、その次の日から激動と云える程にわたし自身の環境が目まぐるしく変化したのも母親は分かっていて、その変化にわたし自身が付いていくのにいっぱい一杯なのも母親は理解しているようであり、また、心配してくれているのである。

　それに約二年間、『黒い女』として半ば引き籠もり的な生活をしていた間中、ずっと色々と迷惑、心配、心労を掛けてしまっていたから、安心させたいのだ。

　いや、もう、二度と、不安にさせたくはないのだ…

　だから今夜はちゃんと帰宅をしたかったのである。

「あ、はい、そうですよね…
　それにまだ連休初日ですもんね…」　
　と、さっきの子犬のような目をしながらそう呟いてきたのだ。

　また、この目だ…

　もう、本当にキュンキュンしてしまう…

「ズルイ…」

「えっ…」

　わたしは思わず、心の声が出てしまった。

「もうズルイわ、そんな目で、見ないでよぉ…」
　本音の心の叫びであったのだ。

　本当にズルイ…

　本当に母性本能を擽ってくる目だ…

「もうダメだからね、わたし以外にその目を使ったら…」

　あ…

　わたしはやきもち、嫉妬、をしている…

「あ、うん、はい…」
　と、健太はニッコリと微笑み、頷いた。

　まさか、わたしが、あんな言葉を言うなんて…

「なんか嬉しいなぁ…」

「え、な、何がよ…」

「いや、美冴さんがそんなことを言ってくれるなんて…ってさ…」

「も、もお…」
　少し悔しかった、そして恥ずかしかったのだ。

　やきもち…

　嫉妬…

　ジェラシー…

　まさか、わたしがこんな言葉を口に出すとは思ってもみなかった。

　わたしはもう、すっかり、健太に、恋に落ちてしまったのである…