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シャイニーストッキング

第18章 ほつれるストッキング2          蒼井美冴と松下律子

 18 松下律子(9)

 カチャッ、シュボ…

「ふぅぅ…」
 美冴さんは、マスターからジッポーライターで火を点けてもらい…
 そう吐息を漏らし、紫煙を吐いた。

「………」

 え、美冴さんてタバコを吸うんだ?
 わたしはそんな彼女の横顔を見つめながら、少し驚いてしまっていた。

 まさかタバコを吸うなんて…
 そう、美冴さんからは、甘いムスクの香りはするけれど、あの狭いタクシー内でもタバコの残り香の気配すらなかったから…
 その横顔が、意外であった。

「………」
 だが美冴さんはその一息だけで、火が点き、先から紫煙を昇らせているタバコをそっと灰皿に置き…
 その立ち上る煙を、ゆっくりと眺め始めていく。

 その振る舞いは、まるで何かの儀式を連想させてくる…
 そんな様相に、わたしには見えていた。

「………」
 そして、立ち昇り揺らぐ煙を目で追い、宙を一瞬見つめ…
 わたしの方に顔を向けてきたのだ。

「あ…わたし、タバコは吸わないわよ」
 そして、そう静かに呟き…

「…うん、そうね…このタバコの匂いや、この揺らぎ、広がる紫煙を眺めているとね…」
 美冴さんはそう囁きながら、ゆらゆらと立ち昇り、漂う紫煙の流れを目で追いながら…

「なんかね、彼、ゆうじが煙の向こうに居る様に感じられるのよ…ね……」

「え……」
 やっぱり、美冴さんにとっての、儀式そのものみたいであった。

「なんとなくね…あの煙の向こうに、ゆうじがいるような気がするの…
 この紫煙の匂いも、あの人そのものを思い出させるのよ…」

「え、あ、に、匂いに?」

「うん、そう、匂い…
 あ、このわたしのムスクもね、彼が好きだった香りでね…
 わたしにとってのあの人の面影であり、サーファーの空気であり…」

「………」

「このお店『波道』を感じる香りでもあるのよ…」

「か、香り…」
 確かにこのお店『波道』内には、いつも微かに甘いムスクが漂い…
 また、さっきのサーファー達からも微かに感じた空気感。

「だからね、このお店に着たらね、いつも黒いストッキングを穿いて、こうしてタバコを1本燻らせるのよ」

「………」

「あ、でも、それじゃダメね」
 美冴さんは、はにかんだ笑みを浮かべ…

「こんなんじゃさぁ、彼の死を乗り越えられたなんて…とてもいえないわよねぇ…」


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