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シャイニーストッキング

第4章 絡まるストッキング3 大原本部長と佐々木ゆかり部長

 72 濡れた目

 あの『黒い女』時代に、よくこの目で、憧憬の目をして、わたしを見てきていたのである。
 わたしは、今夜、二人でこうして飲む事で必ず訊こうと思っていた。
 そしてわたしが呟くと、ふと、ゆかりさんの表情が変わってきたのだ。

 うん、話す気になったのか…

 いや、話したくなったのか…

 さっきのわたしと同じか…

 わたしの過去の話しを訊いた反動なのであろうか、ゆかりさんも話さなければ、いや、話したい、そんな表情に変わってきたように見えた。


「え、なにが、なにが、訊きたいの…」
 そしてそう呟いた。
 やはりゆかりさんは話す気になったようである。

 その憧憬の目の意味が訊きたいの…

 なぜ、そんな憧憬の目をするの…

「そう、その目、その目の…意味よ…」
 わたしはゆかりさんの目を見つめながらそう言い放つ、そしてそれはある意味わたしからの命令に近い口調となった。


「そう、その目、その目の…意味よ…」

「意味が知りたいの…」
 もう一度言い放った。

 するとゆかりさんは下を向き、そしてすぐにわたしを見つめ返してきたのだ。
 話す気になった目になっていた。

「はい…」

「それは…」

「それは…」

 えっ…

 ようやく言葉を選ぶかのようにひと言ずつ声を絞り出してきたのだが、目の色が変わったのだ。

 えっ…

 あっ…

 この目は…

 ゆかりさんの目が濡れてきたのだ。
 その濡れた目は、まるで…

 まるで、欲情の目…

 欲情の濡れた目に感じる。


「か、彼を…」

「彼を、奪られ…」

「彼を、奪られるような…気がして…恐かった…の」

 彼を奪られる…

 彼をって、大原本部長のこと…

 大原浩一のこと…

 だよね…

「あの頃…彼を奪られるような気がして恐かったの…」
 そう、ようやく言葉を絞り出した途端であった。
 ゆかりさんは、今まで堪えていたダムの壁が決壊したかのように、一気に話してきたのだ。
 いや、溜め込んでいた想いを激白してきたのである。


「あの頃…彼を奪られるような気がして恐かったの…」

「あの頃…
 そう、美冴さんの『黒い女』の頃よ…」

 その時、佐々木ゆかり部長が、一人の佐々木ゆかりという女に変わった…





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