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　38　伊藤敦子(4)

「えぇ、そうなんですかぁ…
　お友達かぁ、いいなぁ…」
　伊藤敦子さんはそう呟く。

「うん、そう…お友達なのよ」
　と、わたしはそう言いながら美冴さんを見て…
「ま、とりあえずそんな感じね…」
　そして四人一緒に座り、飲み物を注文する。

「伊藤さんも遠慮なく飲んじゃいなよ」

「あ、はい」

「あと食べ物も遠慮なくね…
　あ、そうだ、伊藤さんの引っ越し祝いにしよう」
　と、わたしはそう言って、飲み物、食べ物を頼んでいく。

　そして、四人で他愛もない会話をしていくのだが…
　実は、わたしは凄く楽しいのだ。

　だってわたしはついこの前まで、いや、本当に今まで…

　友達という存在は無く…

　ましてやこうした職場の同僚等とも、年末年始の忘、新年会以外、殆ど飲んだり食事をした事が無かったから。

　いや、さすがに全然無い訳ではなかったのだが、その殆どが、上司やら、取引先やら、そして、男女のいやらしい下心からの誘い等ばかりで…
　こうした気の合う、つまりは可愛い後輩や、同僚、お友達等とはほぼ経験が無かったのである。

　だが…
　この蒼井美冴さんという存在や、この武石健太という大学時代の昔から好意を抱いてくれているとう存在により、わたしはようやく人並みに変わった、いや、変われたのだ。

　そして彼、大原浩一という男からの愛情により更に変われ、ううん、変わってきているのである…

　だから凄く楽しく…
　そしてつい、お酒も進んでしまっていたのだ。

「えぇ、でも伊藤さんは越前屋さんとはお友達でしょう？」

「は、はい、それはそうなんですがぁ、わたしも学生時代からほぼ友達いなくてぇ…」
　そう伊藤さんは話してくる。

　そしてその会話の中で『わたしも…』という何気ない言葉なのだが気にはなったのだが…

「あぁ、それはぁ、伊藤さんも、唯我独尊、天下無双だったからじゃないの？」
　と、健太がそう言い切ってきたのだ。

「え、唯我独尊、天下無双ってぇ？」

　伊藤さんは訊き返してくる…