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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 28 帰途のタクシー

 午後3時過ぎ…
 わたし達三人は東京タワーのテレビ局前からタクシーに乗り、帰途に向かっていた。

「ふうぅ…
 とりあえずこれで契約問題はクリアできたから…
 明日からは人材育成カリキュラムや、人材集めだわね」
 と、杉山、鈴木くんの二人にそう言う。

「はい、そうっすね、さっそく人材派遣3社の営業には明日の会議の連絡はしています」
 杉山くんは張り切った感じで言ってくる。

「へぇ、段取りいいんだね」

「あ、はい」

 それはそうなのだ…
 この新規事業という新しい大きな仕事は、ほぼ、彼、杉山くんの父親の力のお陰ではあるのだが、だからといってウチの会社的には杉山くん自身の成績と評価されるのだから、張り切るのは、いや、張り切らざるを得ない。

「それに、どうやらある程度の人数も確保できる見通しが立ちまして…」
 と、今度は鈴木くんが言ってきた。

「それはよかったわ…
 じゃあ、さっそく美咲ちゃんにはカリキュラムやマニュアルの制作のお手伝いをして貰わなくちゃね」

 そう、鈴木くんの彼女である松山美咲ちゃんは、なんと、この新規事業業務の経験があり、マニュアル作成が出来るくらいの経験値だという…
 だから、本来は人材派遣社員なのだが、わたしの推薦により『正社員登用制度』を適用し、午前中に大原常務、いや、この本社では統括本部長という地位からの面接と、了解を得たのであった。

「じゃあ、明日からさっそく、うーん、配置転換でいいかなぁ…
 こっちの新規業務に参加して貰っちゃおうかなぁ…」

「あ、は、はい…」
 鈴木くんが嬉しそうに返事をしてくる。

「うん、じゃあさ、笠原主任にさ、その旨伝えてさ…
 コールセンター部のシフト調整もお願いしといてよ」

「あ、はい、わかりました」

 わたしはこんな仕事の話しをしながら、さっきまでの自分の過去の…
『黒歴史』の不安な想いをようやく払拭できつつあった。

「ふうぅ…」
 そしてとりあえず、ひとつの仕事が前進したのと、不安の和らぎもあって、そう安堵の吐息を漏らす。

 すると鈴木くんが、無言でわたしの目を見つめてきた…

「……」

 そうか、それは後で…
 と、わたしも杉山くんがいるから目で返事をする。

 その鈴木くんの目は、お願いしていた大原常務専属秘書についての応えに違いない…




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