
ほしとたいようの診察室
第2章 遠い記憶と健康診断
「それより、のんちゃん。これ。持ってどこ行こうとしてたの? 採血残ってるのに、反対方向に歩いていって」
取り上げた問診票に目を通しながら、蒼音くんが鋭い質問を投げかける。
「えっ……あー……迷っちゃって」
綺麗な院内は確かに無機質で、なんだか迷いやすい風景が広がっている。
でも……。蒼音くんの尋問は続く。
「ふーん、そんな風には見えなかったけどなぁ。だいたいあそこにでっかく『採血→』って書いてあるのに」
そう、蒼音くんの指差す方向には、案内の紙が貼られていて、壁に大きく矢印が張り出されていた。答えられずに黙り込むと、
「……ちょっとこうさせてね」
蒼音くんの声色が変わって、右手を繋がれる。
びっくりするくらい、あったかくて大きな手に包み込まれて、不覚にも安心しそうになって、焦る。
「手、繋がなくても……! に、逃げないよ」
……そう、これでもう、完全に逃げることはできない。
