
戦場のマリオネット
第4章 愛慾と宿怨の夜会
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暗い石畳の地下は、相変わらず時間の感覚を奪われる。
私はそこで、ラシュレと口づけていた。
口づけという可愛らしいものではない。唇で性交している、と言うべきか。
「はぁっ……ふ……ラシュレ、私、貴女のことなんて……」
「そういう顔、最高だよ……イリナが女神に見離されそうな、顔……」
「ゃ、ん……」
くちゅくちゅとはしたない音を立てて、私の舌はラシュレのそれにまとわりついて、彼女の唾液を貪っていた。
まるでとろりとした甘い媚薬だ。唇が触れる前は彼女を突き飛ばしたいほど拒絶しても、一度触れて、舌を差し込まれてしまうと、私は口内も思考も冒されていく。今にも意識を手離しそうにくらくらして、私は水音の根源を喉に流す。
「イリナのも、頂戴……?」
「ん……」
「意地悪」
残った唾液もわざと飲み干して、私は薄く唇を開く。
欲しければ濡らせば、と囁くと、また熱いキスが注がれてきた。
時折キスが離れた時、薄目の向こうに、私はあまりに優しい眼差しを見る。
彼女のきめこまやかな白い肌は、闇に映える。甘すぎず強すぎない、凛とした目許と通った鼻梁のバランスも、自然な珊瑚色の薄い唇も、すっと胸に落ちて馴染むメゾの声も、彼女の悪行全て無効にしてしまうのではないかとさえ思う。
