
仮面舞踏祭~カーニバルの夜に~
第2章 白羽根仮面の男
むしろ、厄介払いできて清々しているとでも言いたげに見えるのは、私の勘ぐり過ぎというものだろうか。
可哀想に、あの子-友里奈のかつて親友だった香恵は、こんなつまらない男のために人生を台無しにしてしまったのだ。
そして、私も。
だが、友里奈は香恵のように犠牲を払っていないだけ、まだ救われるかもしれない。
気がつけば、手が勝手に動いていた。
パアーンと乾いた音を立てて伸吾の頬が鳴る。殴られた彼の方も平手打ちした友里奈の方もひたすら呆然としていた。
これは伸吾のせいで女の花の盛りの時期を無為に過ごすことになった、私からのせめてもの報復。いいえ、友里奈だけでなく、香恵の分、K社専務令嬢、これまで彼の良い加減奈言葉に泣かされてきた数え切れないほどの女たちの怒りと涙がこもっている一撃だ。
と、友里奈の頬を黄金の花びらがかすめた。
見上げると、無数の金の紙吹雪が宙を舞っている。友里奈はハッとした。
今しも黄金のカボチャが前を通り過ぎようとしている!
「内藤伸吾!」
きらきらしいカボチャが友里奈の真ん前を通過してゆくまさにその瞬間、彼女は大音声で叫んだ。十回唱えれば、その相手と後腐れなく別れられるという魔法の呪文、その十回めを。
伸吾がギョッとしたような表情で友里奈を見るが、むろん構いはしない。
「いったい、何事だ?」
伸吾は恐らく、このカーニバルの謂われを知らないのだろう。
伸吾の上にも、友里奈の上にもあまたの金色の花びらが雪のように降り注ぐ。通り過ぎようとしている仮装行列の一行がひっきりなしに紙吹雪をまき散らしているのだ。
「憎らしい男を忘れるための取っておきの呪文よ」
友里奈は自分のつけていた仮面を外すと、思い切りよく投げ上げる。紫の蝶は真夏の夜の熱気と人いきれが立ちこめる夜空へと高く高く飛んでいった。
「せいぜい遠い異国で誰か別の女(ひと)を口説くと良いわ」
友里奈は極上の笑みを浮かべると、彼の方を見ようともせずに踵を返し、まだ興奮冷めやらぬカーニバルの人群れの中へと紛れ込んだ。
可哀想に、あの子-友里奈のかつて親友だった香恵は、こんなつまらない男のために人生を台無しにしてしまったのだ。
そして、私も。
だが、友里奈は香恵のように犠牲を払っていないだけ、まだ救われるかもしれない。
気がつけば、手が勝手に動いていた。
パアーンと乾いた音を立てて伸吾の頬が鳴る。殴られた彼の方も平手打ちした友里奈の方もひたすら呆然としていた。
これは伸吾のせいで女の花の盛りの時期を無為に過ごすことになった、私からのせめてもの報復。いいえ、友里奈だけでなく、香恵の分、K社専務令嬢、これまで彼の良い加減奈言葉に泣かされてきた数え切れないほどの女たちの怒りと涙がこもっている一撃だ。
と、友里奈の頬を黄金の花びらがかすめた。
見上げると、無数の金の紙吹雪が宙を舞っている。友里奈はハッとした。
今しも黄金のカボチャが前を通り過ぎようとしている!
「内藤伸吾!」
きらきらしいカボチャが友里奈の真ん前を通過してゆくまさにその瞬間、彼女は大音声で叫んだ。十回唱えれば、その相手と後腐れなく別れられるという魔法の呪文、その十回めを。
伸吾がギョッとしたような表情で友里奈を見るが、むろん構いはしない。
「いったい、何事だ?」
伸吾は恐らく、このカーニバルの謂われを知らないのだろう。
伸吾の上にも、友里奈の上にもあまたの金色の花びらが雪のように降り注ぐ。通り過ぎようとしている仮装行列の一行がひっきりなしに紙吹雪をまき散らしているのだ。
「憎らしい男を忘れるための取っておきの呪文よ」
友里奈は自分のつけていた仮面を外すと、思い切りよく投げ上げる。紫の蝶は真夏の夜の熱気と人いきれが立ちこめる夜空へと高く高く飛んでいった。
「せいぜい遠い異国で誰か別の女(ひと)を口説くと良いわ」
友里奈は極上の笑みを浮かべると、彼の方を見ようともせずに踵を返し、まだ興奮冷めやらぬカーニバルの人群れの中へと紛れ込んだ。
