
居候と実況者が恋に落ちるまで。
第3章 聞こえてこないけど、聴いている
柊真side
「コウタ、さっきのあれなんだよ」
「えー?どれのこと?」
コウタを無理やり実況部屋に押し込むと俺はそのイラつきをそのままぶつける。コウタとは昔からお互いにこういう関係だ。
「高月さんに変に構うな。…それと、俺が実況者だって言ってないって言ったよな。この先も言うつもりないから」
「なんで。良くないよ、隠し事は。一色はこのままあの子と住む気なんでしょ?」
「・・・だからだよ。絶対に知られたくない」
今まで実況者だって知られて良かったことなんて1度もない。特に、異性は…
「いやぁでもあの時は吃驚したなぁ、オレ。まさかあの一色が男子中学生みたいに『好きな人が出来た』なんて電話してくるとか!」
「…やめろ。話をねじ曲げるな。俺は凄い住み込み家政婦を雇ってしまったかもしれないって言ったんだ」
「で何、どこを好きになったのさ」
「だから違う」
同じ言葉を話しているはずなのにここまで話が通じないってことがあるだろうか。コウタは日本人どころか人間ですらないのかもしれない、と馬鹿真面目に考え込んでしまいそうだ。
「あ"あ"もう!動画撮るぞ。ちゃんとコース作って来ただろうな。お前この前ここに来てから作っただろ、2時間も待たせやがって…」
「なぁ一色。そろそろさ、いいんじゃないの。一色柊真の心の柔らかい部分を触れる人が出来たってさ」
「…っ」
コウタの予想外の言葉に喉がきゅっと鳴った。大学生の頃のノリみたいにして話していたのは、俺の警戒心を解く為で本当はそれが言いたかったのか。
何も言えずしばらく沈黙が出来て、気まずさが膨らむ。するとコウタがパンッと乾いた音を立てて手を叩いた。
「コースっ!出来てないからいつもみたいにリビング借りるね!一色は溜まってる編集作業でもやってて!」
「あ、ちょ…っ」
アイツはあんな風に空気読めない人間のふりをしてるだけなんだ。ホントは気い使いでお人好しで。ずっと立ち止まってゲームに逃げた俺なんかより、ずっと大人で。
俺はただ、扉の向こうに消えたコウタを追いかけて見続けることしか出来なかった。
