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蜃気楼の女

第2章 魔性の女・安田尚子

 世田谷の住宅街に住む 児玉進一(こだましんいち)の家と 安田尚子(やすだなおこ)の家は、隣り合っていた。その縁で、児玉が横幅国立大学に在学中、尚子の父・ 安田仁(やすだひとし)から尚子の東響大学受験に向け、家庭教師を依頼された。週2日の隔週で高校1年生の尚子の勉強を教えることだった。それが、尚子が2年になると、週4日の隔週になり、やがて毎週5日になり、尚子が予定どおり東大受験を受けたいと切り出した頃、成績が上がってきたこともあって、3年生になると、週6日で毎週となり、受験二ヶ月前にはほとんど毎日、付きっきりで尚子と顔を合わせていた。尚子が受験する東大の入学試験に向けて、児玉は尚子の部屋を訪ね、家庭教師として、高校1年生から3年生まで手取り足取り教えた。児玉は知らないうちに幼い妹のような存在だった尚子に引かれていった。児玉は、尚子が魔性の超能力を備えていたことを知る由もない。魔性の超能力を備えた尚子は、超能力を使って、児玉に関心を自分に向けさせている、と思っていた。児玉の尚子に対する感情を、尚子にコントロールされていたわけではなかった。児玉は尚子が好きだった。児玉は、教えると言うのは名目で、尚子に会いたいから毎日家庭教師を続けてきた。
 だから、家庭教師として訪問することになって1週間後、児玉は尚子から「キスして」と切望されて、しょうがないな、という感じを出しながら、心臓をドキドキさせながら、尚子の唇に自分の唇を重ねた。児玉は清楚でかわいらしい尚子とキスができて有頂天だった。

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