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蜃気楼の女

第4章 安田邸

 安田邸への訪問の日。進一は尚子の父から絶大の信頼を得ていると思っていたが、実は、尚子が超能力を使って父親の思考を操作していただけである。生みの親をも上回る尚子の魔性能力は破壊的なすごさと言っていい。超能力者でもある父すら、娘に脳を支配されて思い通りに操られていることを寸分も感じない。まあ、夫婦の能力は二人が合体しないと発揮できないという制約的な超能力であるから仕方ない。それに比べ、尚子も櫻子と同様、突然変異による亜種的な存在と言える。尚子が進一の職場に採用されたことことも、すべて、尚子が超能力を駆使し、厚生大臣になった父・安田仁を採用するよう働きかけた。全くなんて女だ。超法規的なコネを使った。進一はそんな尚子の企みがあったなんて全く知らない。進一にとって尚子は清純で、清楚で、純真無垢な少女である。そんな尚子の企みも知らず、厳格な娘を溺愛する父親によほど気に入られてしまったくらいに感じていた。
 この日、進一はまず始め、実家である児玉家に顔を出し、久しぶりに自分の両親に会った。1時間ほど、自分の近況を報告した。進一の母は久しぶりに元気な姿を見ることができて喜んだ。
「あら、お隣の尚子さんと一緒に働いているの? それは毎日たのしいわね。あんな元気なお嬢さんに成長されて、親御さんも鼻が高いと思うわ。ねえ、進一さん、お嫁さんに尚子さんはどうかしら? 彼女、いいお嬢さんに成長されたわね、本当に、進一さん、真剣に考えてね、尚子さんみたいな明るいお嬢さんとなら毎日、きっと楽しいわ、尚子さんのこと、真剣に考えてね…… 」
 進一の母・珠子はいつになく喜んでいた。尚子と職場が同じという話を聞いて、尚子をパートナーに選ぶ可能性を期待しているようだった。進一は尚子が好きだったから、否定はしなかったが、期待させてはいけないと思って言った。
「あんなにかわいい子に彼氏がいないわけないだろ、面白みのない僕なんかと付き合うわけないさ」
「あら、そうなの? いつも懇意にしてくださるじゃない? ほんと、あなたも尚子さんと一緒に暮らせたら、きっと、毎日、楽しいと思うわ」
「うん、そうだね、楽しいよね」
 楽しいどころか、職場ではいいようにからかわれていて好かれているとは思えない、ということを母に正直に話すわけにもいかない。進一は尚子を気に入っている母に、適当に相づちを打ち、話をはぐらかして家を出た。

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