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蜃気楼の女

第3章 児玉進一

 進一は売店に並べた商品をチェックしていた。
「店長、この商品、なかなかの人気ですねえ」
 進一の秘書のように、後を付いてくる尚子が商品を手にして言った。職員10人の厚生労働大臣官房直轄の諜報室である。しかし、表向きは重宝室と言って何処にも該当しない仕事をする部署である。重宝がられる部署という意味である。何でもやる。求められれば可能な限り努力する。そういうスタンスである。
 重宝室はあらゆる製品のマーケティングをしている。尚子はアダルトグッズに興味があるようで、いろんなおもちゃを試しているようだ。進一はそれがとても気になっていて尚子に聞いてみた。
「君は試しているのかい? 」
「試さなければ分からないでしょ? 気持ちよくなければ、誇大広告でしょ? もっと言えば、詐欺ね? 」
 清楚で清純なはずの尚子の言葉と思えない。日本全国で製品化された商品がこの重宝室に納品される。すべての製造物は重宝室に納品されることになっていて、物品納品制度が法制化された。納品しなければ罰金を科される。1000億円から1円と幅は広く、実に基準がアバウトである。そして、効能通りの性能があるかを無作為に試験している。優秀な製品なら海外に輸出する交渉をする。例えば、尚子が手にした電動マッサージ機である。首都圏で一番売れている。それも単身女性に人気がある商品と聞く。
「こういうの使っちゃうんだね、今の女子は? 」
 電動マッサージ機を手にした尚子はまじまじとなめ回すように見ている。
「そうよね、進ちゃんがあたしに進ちゃんのでマッサージしてくれれば、使わなくて済むのにね…… 」
 進一はまたびっくり仰天である。清楚で清純な尚子から出た言葉と思えない。二人きりになるといつも怖くなるくらい挑発的である。
 近年、失業率の増加もさることながら、少子化も問題となっている。恋人を作らない若者、セックスしないセックスレス夫婦。子どものいない世帯。それでいて、風俗産業は花形産業になってきている。あまたの寂しさ、空虚さ、やるせない気持ちなどを忘却させてくれる耽美な世界は癒やしのパラダイスである。

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