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お面ウォーカー(大人ノベル版)

第6章 ヒーローがいるなら、これもいる。

だが良夫を相手にし、武器と捉えた新聞紙を手放した後、時間をかけて拾い上げたため、その行動を認識出来ずにいた。さらに、ボクシングの構えを見せながら向かい合った良夫に、どう対応していいのかわからなかった。

良夫は、やったことがないシャドーボクシングで拳を前後に振り、当たらないように距離を取りながら、反復横跳びのように左右に動く。

「なんだよぉ~、わかってんだぞ。中に誰が入ってんだ? わかった、長谷川だろ!
お面つけてることを、中で笑ってんだろ。お面知らねぇだろ、俺はこう見えてジャイアント馬場の生まれ変わりだぞ」

ビクビクしながら、強がってみせる。そのせいか、上手く思考が働かず、ジャイアント馬場がプロボクサーでないことすらわからなかった。

メンドウジャは、しばらく良夫の様子をうかがっていたが、突然、竹刀を振り上げる。

「うわぁっ! うそうそ、嘘です。ごめんなさい、私の前世は人間でもありません、カマドウマ(※)なんですぅーーっ! この面は挑発でもおふざけでもありません」

良夫は土下座し、メンドウジャに許しを請う。

だが、メンドウジャは、良夫の横を素通りしていった。

「……え?」

呆気にとられながら、ホッとしてへたり込む良夫。

その背後に、女性の悲鳴が聞こえなければ、残る悩みはお面だけで済んでいたはずだ。

良夫は、振り返る。

ベンチから、自撮り棒を持って撮影している女性に、メンドウジャが向かっていくのが見えた。

「え、ちょっと、待て待て待て」

良夫は、立ち上がった。


(※)カマドウマとは、俗に言う便所コオロギ。

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