テキストサイズ

放課後は、ヒミツの待ち合わせ。(R18)

第12章 夏祭りと毒林檎

心臓が鳴りすぎて、外部の音が遮断されたように感じる。


「……あ」



口をぽかんと開けた澄くんがあたしを凝視して、目と目が合う。


さらりとなびくベージュの髪。

はたはたと揺れる墨色の浴衣。


どうしよう、心臓が転がるように速くなっていく。


……かっこいい。



いつもと変わらない伏目。


澄んだ薄茶色の瞳にあたしが映ってる。



時間が切り取られたみたいに、長く、止まって感じた。




――『ピンポンパンポーン。迷子のおしらせです。黄色の浴衣を着た……』


響き渡るアナウンスでようやくハッとしたあたしは、ふいっと目をそらした。


「……っ、恰好、変だったかな」


俯きかけたけど、ミナと約束したのを思い出して慌てて前を向く。


だけどその時にはもう、澄くんの目は全然よそを向いていて、少し寂しい。


「……化粧、初めて見た。浴衣も」


そう零れた小さな声。


「うん」


返した声に、さらに返ってくることはなくて不安になっていく。


メイクきらいなのかな。

浴衣似合わなかったかな。

気合いれすぎて……気持ち悪かったかな……。



かあっと頬が熱くなっていく。


ひとりでこんなに浮かれて、はずかしい……。



「うえぇ!? 澄、顔あっか! どうした!?」


ミナに腕を絡ませられた東くんがぎょっとした顔をして声を上げた。


「……ほんとうざい」


プイっと顔を背け、先を歩き始める澄くん。



カコン、カコンと橋の上を下駄が鳴る。


東くんとミナカップルの視線があたしにうつり、にやり、似たような笑みとともに、親指を上に向けて立てられた。



「「掴み良し」」


「え?!」


どこまでもニコイチなカップルはにまにまと同じ表情で頷いた。


掴み良かったの? あれで?

もし、そうだったら嬉しいけど……。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ