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狼からの招待状

第8章 水仙月

…カウンターから、甘酸っぱい林檎の匂い
 「チャンミンの婚約者に、嫌われてるわけね」「目障りなんだろ」軽薄なわらい声…「邪魔者は消えないとね」薄笑いの浮かぶ、ピンクのルージュの唇。
 「そろそろ…行こうか」黙ってケイトは、紅茶を口に運ぶ。
 「よろしければ、パイは、いかがですか」ウェイトレスが、林檎の匂いをさせながらテーブルにきて云う。
 「パイ? 太るわ」「アップルパイ? 美味しそうだ」横目でユノを睨むケイト。
 林檎いろの頬のウェイトレスは、ユノに微笑む。
 聞こえよがしのため息をついて、腕組みをし、そっぽを向くケイト。
 ─焦げ茶色の窓枠のそとを、長い尾をゆっくり振りながら、大きな猫が通る。
 …ウェイトレスの娘は、木立ちのなかをさまよう、森の妖精のようだった。
 


 



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