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狼からの招待状

第5章 化石の街

 カウンターにマスカットいろの縦長なグラスが二つ、並んだ。「ジャスミンは、勘が良さそうだ」「俺も─でしょ?」フライが、グレの顔を覗き込むと、はにかんだジャスミンが、耳元まで紅くする。
 「ユノ先輩もこれ、一杯どうですか」空のグラスを見て、グレが云うと、「そうか。 …同じものを」ジャスミンに頼んだ。 
 「あ、これ─?」広げっぱなしの雑誌を見つけたフライが、「ユノ先輩、この写真。本物なんですか」「まさか…でっち上げだよ」きつい目つきで、ジャスミンは眞露のグラスを、ユノの前に置く。
 グレが黙って頷く。「今さっき、それで彼からお説教頂いてた」少し頬を膨らませ、照れ笑いのジャスミン。
 「うん…、ユノ先輩はチャンミンさんひとすじだ」そう云って、雑誌をフライは閉じて、隅にどけた。
 グラスの氷が溶け、口当たりがやわらかに変わる。「今夜は─マスターは?」「閉店まえに見えるそうです」「ジャスミンに任せりゃ安心だ」また、赤くなって下を向いた。
 「ところで、ユノ先輩」グラスを置いたグレが、明るい声で話し出す。 「おとといの夜、キム侍従から連絡があって」

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