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その恋を残して

第8章 ……ちゃった、ね


    ※    ※

 夜になると、誠二さんはクリニックへ戻ることになった。今日は休診日だったようだけど、昨日から蒼空についていたせいもあり残務が溜まっているという。

「蒼空、本当に大丈夫なんだね?」

「はい。お義兄さん……心配をかけてしまって、すみませんでした」

「そんな他人行儀な言い方をしなくてもいいんだよ。少しでも不安を感じたら、すぐに僕に連絡をしてきなさい」

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫。だって今日は、松名くんがいてくれるから……」

 そんなことを言って、蒼空は顔を紅くした。

 その様子を見た誠二さんは険しい顔に変わり、俺の方にツカツカと詰め寄って来る。そして耳打ちした。

「いいか、くれぐれも言っておく。僕の義妹(いもうと)に手を出すな」

「な……なにもしませんよ」

 慌てる俺を、誠二さんはジロッと睨みつける。

「前にも言ったろ。この手のセリフを、言ってみたかっただけだ。一応はね」

 その眼光で威嚇しておきながら、あまりフォローになってない言葉を言い残し、誠二さんは屋敷を後にした。

「お義兄さん、なんて言ってたのですか?」

「あ、いや……ヨロシクね、と……そんな感じで」

 蒼空の質問には、誤魔化して答えている。

 誠二さんが、あんな風に言っていたのは理由がある。実は今夜――なんと、俺はこの家に泊まることになってしまった。

 そんなことを提案したのは意外なことに、沢渡さんである。

 沢渡さんは、再び蒼空が眠ったままになりはしないかと、とても不安を感じているよう。それで万一の時のために、今夜は蒼空の側についていてほしいと、俺に頼んできたのだった。

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