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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第10章 ページを捲って遡る


そう仮タイトルを言ってすぐ、ずっと腕を組んで俯いていた新井さんが立ち上がった。

何事かと見上げると鋭い目と視線が合った。

「その絵とタイトルで話を書いてみなさい」

「え」

「最初君の絵を見た時はこの絵に私の話を付けてみたいと思っていた。だが、絵に込められた思いを聞いて分かったんだ。君が物語を綴るべきだと」

正直、仕事になるかもしれないと思った時にそう言われることが過ぎらなかった訳じゃない。だけどいざ、そう言われると。

不安でいっぱいだ…。

「お、れ…文章書くのすごく苦手で、高校の国語の成績とかも2とかで、それでも文章って書けますか?」

「私もそうだった。国語も人との会話も苦手だが絵本は作れる。文章を作ろうと思っていないからな」

ああ、こんな怖い顔の人も笑うんだ。新井さんは今までのが嘘みたいに楽しそうに話を続けた。

「頭の中にカラーのアニメが浮かぶんだ。それを絵にして言葉にする、それが私の絵本の作り方だ」

カラーのアニメ。そう言われると少しピンと来る。

俺も絵を描く時は頭に浮かんだ絵をそのまま描いて、下書きをじっと見つめるとぽうっと色が付くから同じ色を乗せるんだ。

「いくら時間がかかってもいい。君自身で君の絵本を完成させてみなさい」

俺自身で。
俺の手で、頭で。

悠の世界を描いてみる。

今までやって来た絵と、新しく挑戦する言葉と、で。

「分からないことは全部私に聞けばいい。必要なものは橘さんに頼みなさい。彼女は私の担当編集だから」

「いいんですか…その、そんな甘えてしまって」

真面目に仕事をしているふたりの間に自分のような素人学生が入り込んでしまっても、良いのだろうか。

「当然だ。君はまだ学生で、デビューもしていてない素人なんだから。それにここへ引きずり込んでしまったからには、面倒は承知なんだ」

新しく何かに挑戦しようとする時、少しの不安と言葉には表せない気持ちの昂りがある。

それが爪先から頭まで一気に駆け上がった感覚がした。

「やらせてください」

頭で考えるより手を動かす。

そうやってきたんだ、今までも。

褒められたくて。

俺の絵を見た人に少しでも笑って欲しくて。

「よろしくお願いします…!」

父さん、俺はあなたに褒められた絵でご飯を食べていけるようにこれから大きな挑戦をします。

見ていて。頑張るから。

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