
兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第8章 ママ、お母さん、母さん
家族だからって何もかも言えるかと言うと、それはまた別の話だと思う。
俺はちょっとした愚痴や弱音は言えても、本当に苦しい時には話せない。
それを話すことによって、兄たちが悲しい顔をすると思うと言えないのだ。そんな顔をさせてしまうくらいなら、自分でぜんぶ飲み込んで笑顔の仮面で兄たちの前に立つ方が幾分も気が楽なのだ。
そう、俺は何よりも兄たちに心配をかけたくない。
自分の生い立ちを知った時、知恵熱で寝込んだ俺を覗き込むあの顔が忘れられないから。
「ああ、そうだ悠。今日はポスター撮りがあるからそれに着いて来なさい」
「え"」
なんで、
「溜め込んだ感情の発散、させてあげる」
そう言って怪しく笑った母さんの顔は何故だか鶫くんではなく、智にぃの悪戯が成功した時みたいだった。
血が繋がっていなくても一緒に生活していく中で口癖や嗜好が似ること以外に、表情や顔自体が似てくるとしたら。
俺もどこか母さんや父さんと似ている所があるのか。
そうだったら、いいな。
***
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!!
言われるがまま母さんの仕事場に着いて行った俺は、そう叫び出したい衝動にかられていた。
真っ白なスタジオのある撮影所。事の発端はそこに着いてすぐの母さんの発言だった。
『私の前にこの子撮ってくれない?バックは白で、服は全身黒。その他のイメージはまだないんだけど、いいかしら?』
この人は何を言っているんだろう。
理解する前にされるがまま服を脱がされ、顔には塗りたくられ、髪を散々にいじられた。
そのままカメラの前に立っている。
「よーしじゃあまずはリラックスして笑顔いってみようか!」
知らない人の指示。カメラマンというのは皆こうもテンションが高い生き物なんだろうか。
上手くなんて、笑えない。
「あなたが大人の前で見せる、貼り付けたみたいな顔してみなさい」
バレていた。隠せていると思っていた。
それで何かタガが外れたようだった。
強ばっていた筋肉が柔らかくなって、表情を作れた。
「いいね!もっと、挑戦的に笑って!」
「悠。ぶちまけていいのよ。不安も悲しみも苦しみも、寂しさも。ぜんぶ見せて!」
母さん、母さんはなんて煌びやかな場所に立っているんだろうと思ってました。
でも、違うね。
ここはもっと、叫びが貯まる場所だ。
