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兄弟ですが、血の繋がりはありません!

第6章 愛を知らない長男は


鶫side

オレには時々、兄さんが子どもに見えることがある。

それは精神的にということではなく、今の兄さんに重なって小さくて幼い兄さんが現れるようにして目に見えるのだ。

そういう時は決まって今にも泣きそうな兄さんと、ぐっと唇を噛んで涙を堪える幼い兄さんが見える。

その光景を見る度、心臓を掴まれたような苦しさに襲われるのだ。

「(兄さんの心はずっとあの頃のまま・・・)」

「誰も失わなくなるのには、どうしたらいい…?」

オレが見てきた兄さんは誰からも愛される人で。

だけど、兄さんの中にその愛は溜まらない。
受け止める器にぽっかりと穴が空いているのだ。

その穴は兄さん自身が開けたものだ。人からの愛を受け取ってしまったらそれを返したくなるからだろう。無意識に開けた穴から愛が零れ落ちる。

だから兄さんは愛を知らない。

「無理だよ。それはどうにも出来ない。人の死には抗えない」

人は生まれたら必ず死ぬ。
それが人間に与えられた唯一の平等。

誰だっていつかは大切な人を失うのだ。

それを防ぐことは出来ない。けれど、それまでの日々を愛することは出来るとオレは信じたい。

大切な人との限られた毎日を愛おしく思うこと。
それが誰かを愛するということだと伝えたい。

だけど、

愛されることに何より怯えている兄さんに、今まで以上の家族愛を注ぎこもうとしたところで兄さんには響かない。

「兄さん、オレは兄さんが好きだよ。優しい所、絵が上手い所、笑顔が優しい所・・・沢山好きな所がある」

少しでいい。響け。

「でも、家族として兄さんを愛してるからオレは兄さんの嫌いなとこもあるんだよ。一度寝たら中々起きない所、訳わかんない模型その辺に置く所、生活能力がめちゃくちゃ低い所・・・愛してるから見えることがあるんだよ。兄さんはオレのどこが嫌い?」

ほら、言ってよ。

「…鶫は、優しいから俺より先に俺のことで泣くのすげぇ嫌だ。強引に食べさせようとしてくるし、朝起こす時の声がうるさい…そこが嫌い」

「…ほら、兄さんもオレの嫌いなとこ言えんじゃん。オレのこと、愛せてんじゃん。まずはさ、こういうとこから始めよう」

「俺が…鶫を愛してる?そんなことしたら、」

もう怯えないで。

「大丈夫!なめんなよっオレ絶対兄さんより長生きするから、兄さんを置いていかないから!」


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